2003/01/10

森麻里子

 

ゾーンシステム導入による歩行者・自転車の安全確保の可能性

 

 

1.             問題の背景

私の住んでいる周りは車の交通量が多い。家の前の道は東海道で道は狭いが、県道、国道の抜け道として、多くの車が通行している。通学に東海道を使うが、車は規制以上のスピードで走り抜けるため、いつ交通事故に会ってもおかしくないぐらい危険である。小学生や中学生の通学路でもあり大変危険な状態である。また、車のスピードが速いため騒音・振動がひどい。

車の排気ガスでカーテンがすぐ黒くなってしまうほど大気汚染もひどい。また、住んでいる桑名から名古屋に行くとき、名古屋がスモッグにぽっかりと包まれているのがよくわかる。昔、名古屋市に住んでいたときはわからなかったが、空気が非常に汚染されている。

  このように車の使用によって影響が身の回りに多く出ている。この他にも多くのデメリットを持つため、車を抑制し、歩行者・自転車・公共交通機関中心の社会にすることが望まれる。

これらの問題を解決するため、現在、欧州諸国ではトラフィック・ゾーン・システムが対策として一般的にとられているらしい。日本ではどこもこの対策をとっているところはない。

 

 

2.報告目的

 トラフィック・ゾーン・システムが日本で交通対策として実施されるなら、日本の狭い道路で歩行者や自転車の安全性を確保できるか考えることである。

 

 

3.自動車のメリット・デメリット

私たちは、便利さを求め自動車に依存している。日本の自動車保有数は増え続けている。日本の自動車保有数は1996年7,178万台だが、これは10年前の5,022万台に比べて43%の増加である。……C

トラフィック・ゾーン・システムにより、今日の車社会を歩行者・自動車・公共交通機関中心の社会へ移行することを考えるには、まず、車のことを知ることが必要である。

 

3-1.自動車を使用するメリット

1)自動車がないと今の生活(通勤、通学、買い物など)が成り立たない。

2)自動車は好きな時に、ドア・ツー・ドアで好きな所へ行くことができ、快適である。 ……B

3)自動車はある程度の荷物も運べる。

4)運転中、個人の時間を持つことができる。 ……B

5)公共交通機関は廃れてきていて使いにくい。本数が少ない・廃線になる・料金が高いなど。

6)自動車は豊かな生活の象徴である。

7)自動車の大量生産により雇用が増える。 ……@

8)物の運搬手段に占めるトラックの割合は高いことや、上の5番の雇用など、経済社会に関わる問題で、環境面などだけで自動車の使用を抑制することはできない。 ……@

 

3-2.自動車を使用するデメリット

自然環境の破壊、社会環境の破壊があげられる。

自然環境の破壊では車のCO排出による地球温暖化問題、排ガスによる人体や生態系への影響、自動車廃棄の処理問題や、道路建設による自然破壊、石油が有限資源である問題などがある。 ……@

社会環境の破壊では排気ガス・騒音・振動の問題、駐車問題、交通渋滞、公共交通の弱体化、地域のコミュニティーの破壊、都市の荒廃、自動車による交通事故・交通犯罪の増加などが挙げられる。 ……@

 

自動車は以上のようなメリット、デメリットがある。

車社会では自動車の好影響をすべての人が享受することができない。なので、交通弱者(自動車を運転しない、低所得者、社会的弱者の子供や老人など)にとっても住み良い社会になるように、車の利用を見直さなければならない。

しかし、ただ自動車を抑制すればいいわけではない。自動車の利便性を減らすなら、公共交通機関や自転車をその分、使いやすいように整備することが必要である。

 

 

4.トラフィック・ゾーン・システム

4-1.トラフィック・ゾーン・システムとは

 都心部をいくつかの小地域に分けて、自動車でそれぞれの地域へ行くには、外周の環状道路からしか入ることができないようにしたものである。……D

 

 

 

 

 

 

4-2.イエテボリのトラフィック・ゾーン・システム

下の図はスウェーデンのイエテボリ市である。都心部を5つの小地域に分け、それぞれの小地区の境界(……)を市街電車が通り、自動車の移動の妨げとなっている。……DE

018-1.gif

'70年に決定したトラフィック・ゾーン・システムの原理

 (資料:都心交通の改善 トヨタ交通環境委員会)

 

 

4-3.トラフィック・ゾーン・システムの利点

公共交通機関を都心内で便利に使えるようにすれば、自動車の利用を減少させ、公共交通機関の利用を促進できる。 ……D

自動車の使用を抑制することで、歩行者や自転車の利用を促進することができる。……G

トラフィック・ゾーン・システムによって、公共交通機関の方が使いやすくなり、都心内を自動車で移動する人が少なくなるため、渋滞や交通事故、騒音、大気汚染などの問題が緩和される。 ……D

住みやすいまちづくりをすることで、まちの活性化になる。 ……F

自動車は回り道となるが環状道路を使えば、都心内のどこでも行きたいところに行くことができる。 ……D

環状道路をつくることで、環状道路と従来の道路の重なるところに副都心ができる可能性がある。 ……A

また、環状道路の整備により、都心部の周辺の開発が誘発される可能性もある。 ……・A

 

 

5.浜松市の事例

 浜松市の事例から日本でのゾーンシステム導入について考えてみる。浜松市はゾーンシステムを導入する計画がある。

 

5-1.浜松市の人口

浜松市は人口597,439人(平成14年10月末現在) ……Hであり、人口数は定着してきている。 ……M

 

5-2.浜松市でのトラフィック・ゾーン・システム

  歩行者を優先したまちにするため、トラフィック・ゾーン・システムの導入が計画されている。 ……I

  

下の図はトラフィック・ゾーン・システムの方針図である。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(出典:浜松市の市役所のホームページ) ……J

 

5-3.浜松市の歩行者・自転車対策

歩行者や自転車の利用者が、交通公共機関を使いやすいように、歩行者専用道路・自転車専用道路の整備(J)や、駐輪場の整備(K)、レンタルサイクルシステムの導入(J)を行おうとしている。

  また、歩行者・自転車と、公共交通機関とのネットワークづくりも試みている。そのため、駅やバス停に駐輪場を設けようとしている。 ……J

 

 

6.トラフィック・ゾーン・システムを日本で導入するときの問題点

日本は狭い道路が多い。トラフィック・ゾーン・システムが導入されても、上記の利点の5つ目にあるように、自動車は狭い道路を通行する。歩行者や自転車の安全性を確保するために、広く、何車線か自動車道のある道路では、車線を削減したりして(A)歩行者専用道路や自転車専用道路を整備(D)することがあるが、これらの道路の整備をすることができない狭い道路では、どう自動車から歩行者・自転車の安全性を、また自転車から歩行者の安全性を確保すればいいのか。それを主に住宅地内の狭い道路から考えることにする。

 

<補足> 歩行者と自転車と自動車

 歩行者と自転車がなぜ同じ道路を走っているのか、少し触れておく。

 歩行者と自転車はかつては分離されていた。道路交通法では、自転車は車両となっていて、自動車と自転車が同じ道路を通っていた。しかし、自動車の増加により、交通事故が増加したため、昭和53年から自転車が歩行者専用道路を走行できるようになった。……L

 自転車は歩行者専用道路を、このように交通事故により走行できるようになった。しかし、それは一時的な対処だったにも関わらず、今日も歩行者専用道路を歩行者と同じように自転車が通っている。

 

 

7.狭い道路での自転車・歩行者の安全性確保のための検討

 住宅地内の狭い道路に焦点をあて検討する。

7-1.自転車・歩行者専用道路の整備が困難で歩行者と自転車が同じ道路を通行する場合

歩行者の安全のためには、どうしたらいいか。(自動車と、歩行者・自転車は区別されている)

7-1-1.速度規制をする案

 歩行者の安全のため、自転車の速度規制が考えられる。たとえば、歩行者のそばを通行するときは徐行する。しかし、徐行といっても守られない場合が多いかもしれない。

7-1-2.視覚的に道路を区別する案

できるだけ歩行者と自転車を道路で区別するべきである。自転車が通行する道路の場所は、道路の色や材料を変え、視覚的にわかりやすいようにする。

7-1-3.自動車道路を一方通行化する案

 自転車や歩行者にとって本当に通行しやすい道路というのは、自転車専用道路や歩行者専用道路である。自動車の交通量があまり多くないなら、自動車道路を一方通行化(A)にするなどして、自動車道路の使わないスペース分を使って、歩行者専用道路や自転車専用道路を整備したらどうだろうか。

 

 

7-2.住宅地内の狭い道路で自動車と自転車、歩行者が同じ道路を通行する場合

 歩行者・自転車の安全確保のためには、どうしたらいいか。

7-2-1.ゾーン30の導入による歩行者・自転車の安全性確保の案

ゾーン30は日本ではコミュニティー・ゾーンと言われている(A)。

 

ゾーン30とは、歩行者専用道路をつくることのできない狭い道路であるまちが、自動車と歩行者が同じ道路を使用するが、歩行者の優先のために、自動車は30q/h以下で走行しなければならないという方法である。 ……E

  

 ゾーン30の導入は、歩行者・自転車の安全確保にとって有効な対策になると考える。

7-2-2.障害物による歩行者・自転車の安全確保の案

物理的に歩行者の安全を自転車から確保することも考えられる。障害となるものを左右の端に交互に置き、自動車通行の速度を抑制する。

7-2-3.道路の蛇行による歩行者・自転車の安全確保の案

道路を蛇行させることが可能なら、蛇行させることで自動車の速度を落とし(A)、歩行者・自転車の安全を確保することも考えられる。

7-2-4.自転車の速度規制の案

歩行者を自転車から守るために、ここでも自転車は歩行者の近くを通るときには、徐行をするようにしたらどうか。

  

   

8.総括

 トラフィック・ゾーン・システムにより自転車利用や歩行者が増加したとき、自転車や歩行者の安全性を確保することが、日本の狭い道路で可能である可能性がある。道が狭くても、考えて道を造っていけば、一つの道を快適に歩行者、自転車、公共交通機関、自動車が通行できるだろう。

 しかし、ただ、ゾーンシステムを導入したり、7.での対策をしたりすればいいのではない。その場所ではどのような交通需要があるのかを、住民と話し合って、住民の合意のもと、行っていくことが大事である。たとえば、歩行者専用道路・自転車専用道路の整備のために、自動車道路を一方通行化にしようとするときも、自動車交通量やその道路を利用する自動車の進行方向など、地域の実情をよく考えていかなければならない。交通のあり方を決めることは、まちづくりに直接関係することなので、いかに実際にそのまちに住む住民が行政と共に考えていけるかが課題である。 

 自動車抑制や自転車促進などについて述べてきたが、トラフィック・ゾーン・システムを導入するとき、その効果を高めるためには、他の手法をうまく取り入れることも大切である。

 アメとムチの両方の政策を、バランスよく行わなければならない。自動車の抑制をムチとしたら、公共交通機関・自転車・歩行者の促進がアメとなる。たとえば、アメとムチの関係は、弱いが駐車場の管理や自動車利用の抑制と、自転車利用の促進がある(A)。また、補強関係や、競合で効果を高める方法もある(A)。

 トラフィック・ゾーン・システムは物理的手法であり、自動車交通を抑制するためには、他にも法規制的手法、経済的手法がある(A)。それらの手法を、上記のアメとムチなどの組み合わせで用いることで、トラフィック・ゾーン・システムの効果は倍増する。自動車抑制に対し、様々な面からのアプローチが必要である。

 

 

9.私見と今後の課題

 ゾーンシステムは人口が安定していることが大切だと考える。人口が安定していないところは今後のまちの予測が難しく、トラフィック・ゾーン・システムの実施が困難であるだろう。イエテボリも浜松市も人口は安定している。

しかし、いくら人口が安定していて、ゾーンシステムの実施が合っていそうでも、上でも述べたが、行政だけが決めるのではなく、住民が主体性を持ってまちの交通の在り方を決めていくことが大切であるだろう。人々の生活に合った、住みよいまちづくりをするためには、住民の意見がとても大切であると思う。

住民の声が出て来ないと歩行者や自転車の安全確保の対策もなかなかとられないのではないかと思う。まだ、自動車を使いやすくすることで、まちを活発にしていこうという感じを受ける。今までの自動車優先の発想を変え、住民が主体的に関わっていかなければ、歩行者や自転車優先の道を造ることは難しいだろう。

日本は自転車の利用に適しているところが多いと思う。なので、ゾーンシステムが導入されるなら、自転車や歩行者の安全確保を同時に考えていくことが大切になっていくだろう。今後、すべての人にとって望ましい交通といえるような交通のあり方にしていくことが求められる。

トラフィック・ゾーン・システムは実施されると、それまで都心内を自由に通っていた自動車がいったん外の環状道路に出ることになる。そのため、この対策の実施には、環状道路に出た自動車に対応できるだけの環状道路をつくることが必要である(D)。

 しかし、自動車保有数の多い日本でトラフィック・ゾーン・システムを導入するとき、自動車に対応できる環状道路をつくることができない。そのため、公共交通機関や自転車利用、歩行者のための基盤作りがまず必要であると考える。また、自動車を徐々に自動車の保有抑制、走行抑制、駐車抑制などによって抑制していくことも合わせてする必要がある(A)。それから、自動車が環状道路を用いる方法を取るトラフィック・ゾーン・システムを実施するべきであるだろう。

 

 

10.参考文献

@     宇沢弘文著(1974)『自動車の社会的費用』 岩波新書

A     中山英生・小谷道泰・新田保次著(2000)『まちづくりのための交通戦略 ―パッケージ・アプローチのすすめ―』学芸出版社

B     http://koho.osaka-cu.ac.jp/vuniv1999/nishimura/01.html

C     http://www.pref.tochigi.jp/newplan/tochi21/1bu_03.html

D     http://www.people.or.jp/~eiya/eytr10.html

E     http://lib1.nippon-foundation.or.jp/1999/0075/contents/018.htm

F     http://city.hokkai.or.jp/~takahara/teigen2.htm

G     http://www.mlit.go.jp/crd/city/eco/eco013.html#MOKUJI

H     http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/intro/shizen01.htm

I     http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/admin/plan/tosike/toshimasu2/sankou2.htm

J     http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/admin/plan/tosike/toshimasu2/3-2.htm

K     http://www.city.shizuoka.shizuoka.jp/toshiseibi_bu/koshin/toshikei/toshimasu/zentai/toshikoutsuu.htm

L     http://www.jmar.co.jp/kokyo/bicycle/2.html

M     http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/admin/plan/kikaku/senmon2/kouryu_200.htm