《静岡空港建設の是非》

社会学部 社会学科 c102150  齋藤 公宏

 

. 問題の背景

 

1990年代にバブルがはじけて以来、日本全土が長引く平成不況のあおりを受け、未だ明るい兆しが見えていないでいる。しかし、公共事業と呼ばれる行政から要請される事業が数多く行われているのが現状である。「公共」という抽象的な二文字の中に、すべての問題点が無秩序に飲み込まれているのが現状である。その根底には「 つくること」ことを目的とした、公共消費型の発想が根強く横たわる。つくることまでを念頭に置いた公共事業は、完成後膨大な負の資産を生み出すのもしばしばである。その例として、ダムや橋の建設が挙げられるだろう。すでに、建設後の管理費などは、地方財政を大きく揺るがしているのもしばしばである。そして、一部では公共事業の悪いシンボルとして議論されているのが今、静岡県で建設中である静岡空港である。

 

⑵. 報告目的

 

 私の実家は、現在建設されている‘静岡空港’の隣の町にある。静岡県ではここ数年で、静岡空港に関しての報道がテレビや新聞で頻繁にされている。そして、その建設に関して、各方面から建設賛成や反対の意見がなされていて、その矛先は今や静岡県だけに留まらず、日本全国に広まり若いては国会までも動かす議論となっている。

 そこで私は地元の住民として、この話題に興味を持ち、いろいろな角度から検証してみることにする。

 

⑶.対象とする問題の概要

 

1.-----静岡空港とは?-----

 

昭和62年12月     空港建設予定地を静岡県中部地方にある榛原町と島田市の境に建設することが決定

平成9年12月      空港本体準備工事(場外搬入用道路工事)に着手

平成10年11月     本体工事起工式

平成18年(2006年)春 開港予定

茶畑で有名な牧の原台地から大井川に沿って東西に伸びる標高210メートルの丘陵を切り開き、標点の高さで132メートルの所に位置し、総額1,900億円(内、本体部約500億円)をかけて建設されている第3種空港である。1)

 

2.  静岡県は、東京と大阪の大都市圏を中心とする日本の重心に位置し、「人・もの・情報」の交差点として、あらゆる可能性を持った県である。6)そこに開港予定されている静岡空港がある。

静岡空港は東名、第2東名、御前崎港と、陸・海・空の交通網が結節すれば、21世紀における静岡県の優位性を高め、県勢の一層の発展を図っていくうえで必要不可欠となる。2)

 

(4). 経済面からの指摘

 

〔T〕-----製造、観光のいっそうの発展-----

 

 静岡県は人口、県内総生産が全国第10位であり、人口、経済力とも北陸3県分を上回っている。

特に、全国第5位の製造品出荷額は東北6県分に迫る「ものづくり県」 である。また、観光入込客数は全国第3位、旅館営業数は全国第1位の「観光県」である。5)そのため、空港ができれば、更なる飛躍が期待できる。

 

1. 静岡空港は、利用者の利便性だけでなく、県内総生産の押し上げ効果や税収効果、雇用の創出など、地域経済戦略の視点から大きな効果が期待できる。3)

経済効果 662億円

税収効果 136億円

雇用効果 9,500人

 

2.(地域の経済効果)

 (1)東部、伊豆地域

・ 伊豆や熱海名などは、我が国有数の温泉の観光・リゾート地として、国内外からの観光客需要を担う上で、大きな役割を果たす。

 (2)中部地域

・ 中部地域は、県都静岡市を中心とし、中枢管理機能の集積が高く、商業・サービス業が活発に展開する。2)

・ 空港の開設による国内外との「人・もの・情報」 の交流の拡大により、この地域においては、商業の活性化はもちろん、将来の静岡市・清水市合併後の政令都市化もにらみ、国際、教育、文化、情報などの高次都市機能のさらなる集積、展開を実現。2

富士山、駿河湾などの観光資源の活用や、空港と高速道路・港湾機能との連携 による全国的な物流拠点の展開も期待できる。

 (3)西部地域

・ 西部地域は、オートバイや自動車などの輸送機械をはじめ、ピアノなどの楽器・電子機械技術製品等を中心に、県下最大の工業生産高を誇る我が国有数の工業集積地域で4)、空港の開設によって、これら産業の新たな躍進に寄与するとともに、雇用創出の拡大を実現する。

         観光面においても、浜名湖・遠州灘などの優れた観光資源の活用を期待。

 

しかしこの反面、静岡空港建設における経済予想の矛盾も懸念されている

 

〔U〕 現在、国会では公共事業の見直しが進められているが、まだ十分ではないと考えられる。しかし、無駄な公共事業であるばかりでなく、有害な公共事業でありながら、強引に工事が進行しているものもある。

静岡空港がその代表だ。

 

1.-----完全に時代の流れを読み間違えたプロジェクト-----

 

「一県一空港」など、バブルの時代の悪夢である。路線や運賃の設定が自由化されて、航空会社は採算の取れない路線からどんどん撤退している。7)東京・名古屋・大阪とも結ばれない静岡空港には、長崎や熊本などの地方の路線しか結ばれない。それなのに、よその地方空港の何倍、何十倍という、1900億円もの建設費がかかる。

 国も空港整備政策の展開を始め、静岡・神戸両空港の安全性に疑問を投げかけていて、2003年、国の事業債評価の対象にもなっている。7)

 

2.-----需要予測は水増し、事業責は過少見積り-----

 

a-1(需要予測の三つの嘘)

県は、年間178万人との需要予測を立て、設置許可を得たが、いくつもの問題点を抱えている。

         試算がバブル時の高い経済成長率(3%〜4%)からなされている点。

         JRとの利用割合が都合よく設定されている。

・  試算は、想定される開設路線間を往来する県民がすべて、静岡空港を利用することになっている。8) 

 

b-1(事業責の過少見積りと静岡県の財政悪化)

 丘陵地帯に造られる静岡空港(全体用地約530ha)は巨大な盛土構造となる。滑走路は標高132メートルの位置に建設されるが、それより高い山はすべて削られ、深い谷は埋め立てられる。このため、移動土砂量は2700万平方メートルに上り、東京ドームのおよそ22杯分。新広島空港(約1600平方メートル)の約1.7倍にあたり、国内最高記録となる。新広島空港でも最終建設費が約2700億円かかっており、予定の1900億円で収まるはずがない。移動土砂量から換算し、5000億円近くかかるのが妥当である。

 静岡県はもともと財政力があり、財政力指数は全国五位を誇る。しかし、バブル崩壊後、県税収入が大きく落ち込む中で、大規模プロジェクトを推進したため、財政状況は急速に悪化した。県債の発行残高は約2兆円に上り、予算規模の1.45倍。予算破綻ランキング(98年度)はワースト8位である。8)

 このため、県知事は財政危機宣言を行い、職員給与カットや施策・事業の見直しなどを打ち出した。

 

*経済面での検討

経済面をメリットとデメリットの立場から見てみると、デメリットの主張のほうが強いうに感じられる。

・確かに空港が出来れば中部地域は利益を受け発展すると思うが、他の地域まで強い影響を及ぼすとは考えにくい。

・建設費用を1900億円と予想しているが新広島空港との比較から見て、その額で収まるとは到底考えられず、本体建設費を加えれば莫大な額になるのは必衰だろう。

・あと、県は需要予測の反論を受けて178万人から120万人に大幅修正したことから、まだまだあてにならない。

このことから、経済面から検討してみると静岡空港建設は県や国にとっては有害であろう。

 

(5). 環境面からの指摘

 

〔T〕-----自然環境対策-----

 

 空港周辺部にある山林には、放置され、林の中は暗く、表土が流失し、地面が露出しているところが多くある。林内に陽が射し込むように間伐し多様な動植物が生息できる空間を創出する。9)

 地域の自然環境の綿密な調査と、その地域の特性に基づいた適切な自然環境保全対策を行えば、開発による自然環境への影響は最小限にとどまるとともに、森林環境の復元や貴重動植物の保全も十分に可能となる。9)

 「空港の森ルネッサンス作戦〜みんなでつくろう緑の空港」を合言葉に、空港建設で伐採した樹木のチップを利用したリサイクル堆肥などを敷いた空港本体部のり面に、ヤマモモ、アラカシなど郷土種の苗木を植栽している。空港建設地で採取した郷土種の種子から育てた苗木の植栽によって樹林環境を復元し、「緑に包まれた空港」をめざしている。1)

 

〔U〕-----自然破壊と生活破壊-----

 

1.(度が過ぎる自然破壊)

 空港建設地は、かつては杉・ヒノキ・かし・しいなどの広葉樹林と針葉樹林が生殖し、また、茶畑・みかん畑が多く存在していた。

 しかし、空港建設によって、何年、何万年とかけて育ってきたそれらの木々は伐採または移植させられた。皮肉なことに、その場所の茶畑を移植するためにまた、ほかの山を切り開き移された。

 空港建設予定地は、県の調べで自然度7〜9(自然度10南アルプス)であった。普通の里山は自然度5でいかに自然が豊かな場所だったかわかる。ちなみに、神奈川県や東京都では7以上は開発が禁止されている。8)

 県は現在絶滅の危機にある(注)オオタカを保護すると言っているが、オオタカの天敵はからすである。オオタカを守るためには、からすを退治しなければならない。県の対策としてからす退治は考えられていないのが現状である。 7)

(注)オオタカとはワシタカ類に属する肉食性の鳥で、大きさはカラスほどである。主に里山に生息し、その中で様々な動物を餌とする。9)

 

2.(空港建設による県民への圧迫)

 静岡県民は決して豊かではない。それどころか、福祉・教育・医療などの県民一人当たりの予算は全都道府県の中でも最低のレベルである。「なくても不便じゃない、あっても便利じゃない」空港建設を強引に進める意味はどこにあるのか。現在、県財政は完全に破綻している。福祉など県民の生活に身近な予算は削られっぱなしで、さらに、地域の道路や河川の工事費なども大幅に減らされている。県民の生活破綻が進むのは、大手ゼネコンや一部の政治家の利益にしかならない空港プロジェクトが最大の原因である。 *7

*環境面での検討

 ・文化や交通手段を発展させていく上でのある程度の環境破壊は避けることが出来ない。

 ・県は空港を建設する過程で適切な自然環境対策を行っており、環境破壊を最小限に止めようと努力している。

  ・オオタカの保護についても、今後‘からす’のことについては考えていけばよい。

  ・しかし、運営経費の赤字によって県民への財政圧迫は深刻になる。

 このことから環境問題のことに関しては、しっかりとした対策がなされていると思うが、運営経費赤字による県民への保障がどのようになるのか疑問が残る。

 

(6). アクセスと料金1)

 

 ・ 静岡市からの場合   静岡空港へは自家用車を利用して 40分 ,144

                          公共交通機関を利用して 41分 1,000

                 名古屋空港まで公共交通機関を利用して 1時間47分 7,050円

                 羽田空港まで公共交通機関を利用して 2時間00分 6,650円

                 成田空港まで公共交通機関を利用して 2時間17分 8,890円 

                 

 ・ 浜松市からの場合   静岡空港へは自家用車を利用して 511,571

                           公共交通機関を利用して 531,250 円 

                名古屋空港まで公共交通機関を利用して 1時間38分 5,680円

                羽田空港まで公共交通機関を利用して 2時間48分 8,540円

                成田空港まで公共交通機関を利用して 3時間05分 10,880円

                                     

7). 路線状況

 

 国内: 北海道や九州の都市と静岡県が直接結ばれることになる。観光旅行はもちろんのこと、出張や帰省もずっと便利に快適になり、旅行もビジネスも、可能性が大きく広がる。また、近い将来には、東北や北陸、四国方面へのコミューター路線も視野に入っている。

 海外: 海を越えて、人と人、企業と企業の国際交流がますます盛んになっている。平成12年の実績では、静岡県の海外渡航者数は43万人で、全国で9位にランクされている。また、県内に本社を置く企業のうち、365社が東南アジアを中心に1,080の海外事業所を設置している。

 また、国際化の時代の到来に伴い、全国的に地方空港の国際化が進んでいる。すでに、第三種空港である岡山空港、富山空港など21の地方空港で国際定期便が就航しており、全国の国際線乗降客数に占める割合は、約18%にも上っている。静岡県民の台湾、韓国、香港などへの出国者数は、現状でも国際定期便の就航が可能となる旅客数を上回っており、海外の航空会社からも意欲的な見解が示されている事からも、国際定期路線の就航が期待されている。1) 

 

予定路線6)と所要時間1)

国内六路線

国外九路線

目的地

時間(分)

一日の便数(本)

目的地

時間(h)

週の便数(本)

新千歳

95

4

ソウル

1h48

4

福岡

85

4

北京

2h50

2

長崎

95

2

上海

2h15

2

熊本

85

1

香港

3h33

4

鹿児島

90

3

台北

2h43

3

那覇

135

3

グアム・サイパン

3h30,3h20

5

 

シンガポール

6h13

5

ホノルル

6h33

5

バンコク

5h10

4

                                                                                        

                                                                                                                                            

8). 総合的な検討

 

 空港建設における上で最も考えなければならないことは財政面と環境面であろう。

まず財政面であるが、静岡空港開設において静岡県全地域が利益を受けるとはあまり考えられない。なぜかと言うと、静岡県には高速道路や東海道線が通っているし、港が多く海上交通が発達している。わざわざ値段の高い飛行機を使用してまで活用しないだろう。そして、温泉地帯が多くある伊豆地域と静岡空港とは最寄りの駅から在来線で2時間以上かかってしまい、明らかに東京から来たほうが便利である。県の財政が落ち込んでいる中での空港建設は県だけではなく県民にまで影響を与える。

環境面から見てみると、空港だけではなく周辺のアクセス道路を造るために自然豊かな森林を伐採することはかなりの抵抗感があるが、文明発達のためには致し方ないことである。ただ木々を伐採するだけではなく環境保全対策をしたり、樹木のチップを堆肥にしたりと自然破壊を最小限に努めていることには感心できる。

あと、アクセスや料金面から見てみると、静岡空港ができると所要時間や費用が大幅に縮小できる。そして、路線状況は国内だけではなく、予定では日本人観光客がよく行く国まで行けて大変好都合であろう。

しかし全体から見てみると、やはり財政面がかなり静岡県にとってのネックとなり、開設してからの財政赤字は避けられないだろう。今、ここで建設を中止すれば影響は最小限に避けられるし、その用地を住宅分譲地に使ったり、テーマパークを計画したりすることが出来るから、私は空港は必要ないと考える。

9). 私見

 

 今回の調査により、静岡空港の不要さを認識する事が出来た。初めは自分の県に空港ができれば大変便利だと思っていたが、空港を建設する事により多大な悪影響を及ぼす事がわかった。あまり役に立たず、しかも莫大な借金を背負い、自然は破壊するし、騒音問題は発生する。また、墜落事故の危険にもさらされる。なぜこのような無意味な事業がまかり通るのだろうか。県はその事について、なにもコメントしていない。

 最近開設された地方空港は、需要予測の半分が実績という状態や開港しても赤字を出し続けるという中で、静岡県は当初の見解を崩していない。このことは、かなり無謀な事ではないだろうか。どうせ開港しても同じような状況に陥ると分かっているのなら、もう一度計画を立て直すべきではないか。今止めれば、それ相応の対応ができるのに、造ってしまってからでは手遅れである。静岡県の将来は、現段階の判断で決まってしまうと言っても過言ではないだろう。

 

(10)          . 参考文献

 

未来の扉を開く、静岡の挑戦。静岡空港 静岡空港建設局 平成1212月発行pp. 3〜5 8 11〜14 1)                        

 

静岡県空港建設局 ビラ第6号 2)

 

2006 Shizuoka The Next Stage 静岡空港建設局 pp.8 4)

 

静岡空港〜ここが聞きたい、これが知りたい〜 SHIZUOKA Q&A AIRPORT 静岡空港建設局 2001年2月 pp.2 5)

 

〜輝く静岡の未来を拓く〜 静岡空港 平成18年春開港予定 静岡県空港建設局 平成13年2月  pp.8 6)

 

(11). インターネット

 

http://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-08/ap_vision/data06.htm 3)

 

http://isweb11.infoseek.co.jp/area/kukouno/tyuusikosokenminnorieki.htm  7)

 

http://isweb11.infoseek.co.jp/area/kukouno/daiyamondo.htm 8

 

http://ss.ffpri.affrc.go.jp/labs/kouho/mori/mori-101.html 9