夫婦別姓はどのように取り入れるべきか

 20021129

社会学部 社会学科 c102143 小山真由子

  

(1)   問題の背景

 

現在、女性の社会進出には目をみはるものがある。それにともない、結婚に対する考え方にも大きな変化が見られる。そして、結婚に関する問題で今、最も注目されているのが「夫婦別姓」についてである。夫婦が希望すればそれぞれ結婚前の姓を名乗ることができる「選択的夫婦別姓制度」の導入を求めるうごきの背景には次のようなものがある。日本における平均寿命の伸び・晩婚化・出生率の低下などによって、女性のもつ生涯の自由時間が大幅に増加し、高学歴化したことなどである。 *1  昭和60年代以降、女性の社会進出にともない、結婚後も仕事を続ける場合、改正による様々な証明書類の訂正手続きが面倒であるとの声があがり、政府は「夫婦別姓制度」の導入を検討し始めた。 *4

しかし、今の社会では、まだ夫婦別姓を完全に受け入れる体制が整っていないのが現状である。

 

(2)                                                                                                                                                                                                                                         報告目的

 

ここ10年間で、夫婦別姓制度への世間での考え方が大きく変化している。“別姓は今や追い風”といわれているが、それにはまだまだ多くの問題がある。

 それらの問題を解決し、誰もが納得して結婚を考えるようにするためにはどうすればよいのだろうか。“別姓にする”とどのような事実があるのか、明白にするためにあらゆる角度から検討してみたいと思う。

 

(3)                                                                                                                                                                                                                                         対象とする問題の概要

 

現在の民法では、

民法第750条『夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。』*6とある。

このように、結婚の際に夫婦は夫か妻のどちらかの姓を名乗ることが定められている。                 

 

◇ 夫婦別姓制度をめぐる議論の流れ ◇

・平成8年に法務省が民法改正案をまとめた際、「選択的夫婦別姓」制度の導入を提言したことから、にわかに国会で論議を呼ぶようになった。

・この案が発表されると、国民の間から一斉に反対の声が上がり、全国各地の地方議会でも反対・慎重対応を求める決議が行われている。                           

・平成8年以降、民主党・社民党・共産党などを中心に夫婦別姓を求める法案が何回か国会に提出されたが、いずれも審議未了のため廃案となっている。 *4

 

◇ 夫婦別姓の支持率 ◇ *5

2002年8月4日付で発表された内閣世論調査では、選択的夫婦別姓制度に賛成する人は42.1%で、通称を含めて結婚後も別姓を名乗れる何らかの法改正に賛成する人は65.1%にのぼった。逆に、法改正に反対する人は29.9%にとどまり、76年以来の政府世論調査で初めて制度導入賛成が反対を上回った。その一方、夫婦別姓制度の導入に賛成する人のなかでも、実際に別姓を希望する人は少数派で18.2%にとどまった。

 

(4)  様々な視点からの検討

 

a.夫婦別姓賛成派の意見

[別姓のメリット]

・自己喪失感がない。 *2

(それまで名乗ってきた姓が奪われることによって、自分自身を失った感じがして、自分が自分でなくなるような痛みが生じる。)

・配偶者間の不平等感がない。 *2

(夫婦の一方のみが改姓するため、改姓した側にとっては、自分だけが変えなくてはならないという屈辱感がある。)

―上の2つの意見は人それぞれなので、このように思わない人もいると思います。あくまで一般的な意見です。―

・個人としての信用、実績を保つことができる。 *2

(職業をもっているひとなどは、結婚改姓によって同一人物であることが分からなくなり、仕事に支障が生じたり、信用や実績がなくなってしまう。)

・改姓にともなう手続きのわずらわしさがない。 *1

(改姓すると、パスポート、運転免許証、印鑑証明などの改姓手続きが要求される。)

 

b.夫婦別姓反対派の意見

[別姓のデメリット]

・夫婦別姓は親子別姓であり、家族の絆が弱まり、子供がイジメにあうおそれがある。

・実際に夫婦別姓を選択しようと望む人はわずかである。

(現状は、約98%の夫婦が夫の姓を選択している。) *4

―だからと言って、この意見が“同姓のほうが良い”という理由にはならないので、別姓のデメリットとは関係ないんですけど、参考として書きました。―

・仕事上の不便は、旧姓を「通称」として使用できるように、法を整備することで解決される。 *4

―別姓反対を主張するなら、「このような解決法がない」と言えなければ別姓反対の根拠にはなりません。よって、仕事上の不便についてだけの法を変えるというのは別姓反対の根拠にはならないと思います。―

・別姓制度は、結婚・離婚のハードルを低くし、安易な結婚・離婚が増加するおそれがある。 *4

・同姓制度と別姓制度を同等のものとして、2つの家族形態が共存することはふさわしくない。 *4

(これは、別姓反対の人だけでなく同姓に反対の人にも言えることです。)

・夫婦同姓が日本のよき伝統であり、それを壊すことになる。

―しかし、歴史的にみると氏名は各時代の社会体制と深く結びついている。

例えば、670年に日本初の全国的戸籍「庚午年籍」(こうごねんじゃく)ができるが、夫婦別姓で同じ戸籍だった。武士階級においては、源頼朝の妻が北条政子であったり、足利義政と日野富子であったりと違っていた。さらに、日本における夫婦同姓の歴史は、1898(明治31)年からで、わずか100年という日の浅いものである。 *1  こういったことからも、夫婦同姓を日本の伝統と決めつけるのは単なる思いこみにすぎない。―

 

 

○ 夫婦別姓が、家族の絆を弱め、子供がイジメの対象となるというのは本当だろうか?

 

姓が違うというだけで家族の絆が弱まるのであれば、今まで事実婚(婚姻届を出さない結婚)をしてきた夫婦やその子供たちを否定することになるだろうし、同姓でも仲の悪い人もいれば、別姓でも仲のいい人もいるだろう。家族の絆は夫婦・親子の努力や愛情で作られるものであって、法律がきめることとは言えない。子供がイジメにあうという意見も説得力を欠く。 *3  仮に、別姓制度が導入されてイジメにあうとしても、この制度が世間に受け入れられるように活動を行っていけば必ず解決される問題だと思う。

 

○ すでに別姓を制度化しているほかの国はうまくいっているのだろうか?

 

[中国・韓国の場合]

 儒教的思想の影響から“生まれ”にこだわる考えがあり、妻に夫の姓を名乗らせない男尊女卑がある。特に韓国では、姓が同じ者同士の結婚は法律で禁止されているため、韓国民の間では同姓同士の結婚を認めてほしいという運動が起きている。 *3

中国・韓国で採用されているのは非選択制の夫婦別姓論であって、日本で問題にされているのは選択制夫婦別姓論であり、全然違う。

この2つの国の夫婦別姓は男女平等にプラスに作用せず、むしろマイナスに作用している。その理由としては次の2つがあげられる。

@     夫の姓が家族の名称となっている。

中国や韓国にはダブルネームの習慣はなく、夫の姓が家族の名称となっている。すなわち、女は男に従うものだという思想が名称の上で表されている。 *7

 

A     子は父の姓を名乗る。

特別の例外でない限り子は父の姓を名乗る。そのため、母子は常に別姓である。名称の上では母と子の親子関係は分からない。 *7

 

 中国・韓国の夫婦別姓が男女平等にマイナスに作用している理由は上記の2つであって、夫婦同姓という選択肢がないからではない。

 

[アメリカ・スウェーデンの場合]

 戸籍がないかわりに国民総背番号制により、誰と誰が夫婦かを識別している。また、姓はファーストネーム(名前)よりも日常生活で使うことが少なく、呼ぶときはファーストネームですむため、仕事上も差し支えない。 *3

 

 このように他国をみると、その国の背景にある宗教・歴史的伝統から別姓を法制化していることがわかった。それぞれの国の文化の違いがあるため、世界の国の多くが別姓だからといって別姓がいいとは言えない。つまり、他国と比較して考えることはできないということである。

 そして決して“夫婦別姓は世界の潮流”ではない。 *4

 

     夫婦別姓だと、子どもの姓が決まらなくなる場合があるのではないか?

 

子どもが生まれたが、どちらの姓をつけるかで両親が争ったり、いつまでたっても子どもの姓が決まらないという場合もまれに考えられる。出産までは10ヶ月もあるのだから、普通はその間に子どもの姓をどちらにするか考えているはずである。名前にしても、男か女か分からないうちから2通り考えておいたりする。

 名前をつけるのに時間がかかるという場合はあるが、いつまでたっても名前のない子どもというのはいない。姓についても同じである。親の愛情があれば自然に決まるものである。

別姓が認められている外国で、夫婦が子どもの姓でいつまでも争っているというケースはいまのところ聞かれていない。 *2

 

○ 現在議論されている別姓制度は、選択制だから問題ないのではないか?

 

別姓制度をめぐる議論の1つは「選択制だから問題ないのではないか」というものである。確かに現在、別姓制度を選択しようとしている人は内閣府の世論調査でも1割程度と圧倒的少数といえる。しかし、これが長い年月を経た場合どうなるだろうか。いったん法制化されれば、マスコミなどを通じて別姓促進の運動などが多く行われることは明らかだろう。そればかりでなく、いま選択的夫婦別姓制度の導入を求めているグループの最終目標は、「選択制」ではなく「夫婦完全別姓」なのである。

家族制度は、国民生活の基本にかかわる重要な政策である。仮に選択的夫婦別姓制度を導入して何か問題が起きた場合、ほかの政策のように廃止するというのは不可能といえる。「自分は同姓を選択するから関係ない」などと言っている場合ではない。 *4

 

(5)  総合的検討と総括

 

 現在主張されている制度は、強制的なものではない。自分の姓を変えたくない・望まない人はそのまま同姓を用いればいいのである。このように強制でない限り、この制度に反対することはできないだろう。しかし、これまでの夫婦観や家族観を大きく変えると思われるこの民法改正案の危険性がまだ充分に認識されていない。そのため、選択的夫婦別姓制度が導入された場合の50年後、100年後の家族像を考え、慎重に検討する必要がある。

 

(6)  私見

 

ただ単に、夫婦別姓に賛成・反対ということだけを言い合うのは、もう時代遅れではないだろうか。その人自身の自由で別姓・同姓を選択できれば一番いいと思う。しかし、夫婦同姓を主張する人が、別姓を主張する人の思いや意見を聞かずに、自分の価値観を押し付けることは間違いだと思う。お互いの意見や主張をしっかり聞いて、事実をふまえることが大切である。日本の歴史的な流れを理解して、個人の意思を尊重していくべきだと思

った。そして、姓が違うということを異常だと差別するような社会の意識を変えていくことが必要なのではないだろうか。

 

(7)参考文献

1『夫婦別姓への招待』 高橋菊江・折井美耶子・二宮周平著 (1998)有斐閣選書

2 『これからの選択 夫婦別姓』 東京弁護士会/女性の権利に関する委員会 (1990) 日本評論社

3 『私が夫婦別姓にこだわる理由』 福沢英敏 (1997) 近代文芸社

4 http://www.nipponkaigi.org/reidai01/Opinion3(J)/family/huuhuQA.htm

 *5 asahi.com:生活:出産・子育て http://www.asahi.com/life/child/0805a.html

6 『デイリー六法2002』 三省堂 P372

*7『夫婦創姓論』 鎌田明彦著 (2002) マイブック社