首都は東京であるべきか

                               2003年1月9日

                             c102154 坂井 俊介

 

〔1〕         問題の背景

 

   現在、日本の国土面積の4%に満たない東京圏に、全人口の約25%が生活している。それは、日本の高度成長のたまものともいえるのだが、その結果、住宅問題・環境問題・交通問題・災害に対する弱さの問題等、様々な大都市問題に直面している。

    この東京一極集中の解決策として、「国会移転決議」が、1990年11月に共産党を除く全党派の賛成で可決された。

     しかし、この決議に東京都が断固反対しているため問題が生じている。

 

 

 

〔2〕         報告の目的

 

   古くから首都を移転するという案は多く出されている。しかし、東京都の猛烈な反対などから議論が進んでいないのが実状である。そこで、経済や環境などの様々な観点から、首都が東京であるべきか、それとも移転するべきなのかを検証していきたい。

 

 

 

〔3〕         対象とする問題の概要

 

  〔首都移転問題の経緯〕 *1

     平成2年11月に「国会の移転に関する決議」が、衆・参両議院で採択され、4年12月に議員立法で「国会等の移転に関する法律」が制定される。

     平成8年12月に「国会等移転審議会」が発足し、10年1月、移転先候補地の調査対象地域として、北東地域、東海地域、三重・畿央地域の3地域が選ばれる。

     その後、関係11府県知事のヒアリング、現地調査、全国9カ所の公聴会、調査対象地域の絞込みが行われ、11年12月に移転先候補地が答申される。

移転先候補地    

:栃木・福島地域

:岐阜・愛知地域

:三重・畿央地域(将来、新たな高速交通網等が整備されることになればとの条件)

     平成14年5月までに終わるはずだった移転候補先の絞り込みは未だ完了せず。

     平成16年  新都建設開始予定

     平成35年  移転完了予定

 

 

 

〔4〕         経済的な面での検討

 

@    移転費用は20兆円

国は移転費用を12兆3千億円と試算している。しかし、東京都が平成13年に再試算したところ、20兆1千億円にも移転費用が膨らむことが明らかになった。*2

A  政府は新しい首相官邸を作った。

新しい首相官邸の完成披露式典が、平成14年4月22日に行われた。

 新しい首相官邸は、約650億円の費用を投入し完成した平成16年までに各省庁の災害対応力の強化を目的とした補強工事が完成する予定で、この改築に少なくとも6700億円かかるといわれている。*2

B                  日本のGDP(国内総生産)が減少する

首都をどこに移転したとしても、日本経済全体の実質GDPは2023年までの累積で、最大14兆円減少する。*2

移転先のGDPは増加しても、東京をはじめとするほかの地域は減少してしまう。

  

一部評論家からは、公共投資だけで首都が移転されるわけではなく、民間の活力も利用されるため財政負担は軽くなるという意見も出ているが、移転には莫大な費用がかかり財政上の問題が出てくるのは明らかである。

 

 

 

〔5〕         生活の質という点での検討

 

   @     東京人の生活空間が非常に狭い。

東京圏の一戸あたりの住宅面積は、平均約65平米、日本全国の平均よりも20平米も狭い。公園面積、道路面積も欧米の都市よりはるかに少ない。*3

 

 

A     時間的余裕が少ない。

東京圏の通勤者は平均往復3時間を通勤に費やしており、その時間は睡眠時間にまで喰い込んでいる。東京圏のサラリーマンは、大阪圏に比べ15分、その他の地域に比べ30分も睡眠時間がすくないという。*3

  

 

B                  選択の自由

  現在、東京圏には、金融や情報、サービス業が、圧倒的に集中している。何をしようにも、それだけ選択の幅が広い。「好みに応じた選択ができることは、豊かさを実感できる要素のひとつである」*3

      

       生活の質というものは、一概に判断できるものではないが、もし首都が移転されて、通勤時間等が減り、時間的ゆとりが生まれるのなら首都移転も有効的な政策といえる。

 

 

 

〔6〕     災害対応力という点での検討

 

東京は地質的に、何十年に一度大地震が起こる。現在のような東京一極集中の状態で、東京が大地震に襲われると、日本の中枢機能は停止してしまう。現在の東京では緊急時の危機管理面での十分な対応は必ずしも可能ではない。首都機能の移転で、政治や文化などの中枢が同時に被災することを回避することができる。災害に対して安全性の高い地域に災害時の司令塔機能を構築することで、災害対策を強化することが可能となる。

また、移転跡地の活用で、東京の防災性の向上も期待できる。*4

しかし、移転費用を現在の東京につぎこめば、災害対応力の面は改善できるであろう。

 

 

     

〔7〕   環境上の問題

  

   北東、東海、三重・畿央のいずれの移転候補地域に首都を移転したとしても、最低8500haの森林等の破壊が起こると示唆されている。

    しかし、現在東京圏は人口の増加などから、毎年のように水不足にみまわれている。それに加え、大気汚染も深刻である。

8500haの森林と、現在の深刻な東京の環境問題を照らし合わせるのは難しいことだがどちらにしても、策を講じなければならない問題である。       

  

 

 

 〔8〕総合的な検討と総括

    

 今の東京は、経済、人口の集中が、集中を呼ぶ連鎖におちいっている。この連鎖を断ち切り、東京膨張を防ごうとするならば、首都機能だけでなく、東京の経済的中枢管理機能を地方へ分散させることが必要である。*5

首都機能の移転により、東京への人口や産業・経済の一極集中や、地価の高騰は当

然改善されるであろう。しかし、首都機能が移転には、莫大な資金がかかり、移転先すら未だ決めかねている状態である。

 首都を移転することで、東京に住み、働く人の生活にゆとりができるとしても、現在の日本の不景気・金融危機の状態では、結局のところ首都機能を移転する余裕はないであろう。

 

 

 

 

〔9〕私見

  現在の東京のように一ヶ所に経済、情報、流行等の中枢がそろうことにはメリットがある。そしてビジネスチャンスも多いと思う。やはり華のある場所だとはいえるであろう。

この一極集中の問題は、古くから日本人がもつ、「ミヤコ」への憧れが影響しているのではないかと思う。昔から「都落ち」などという言葉があることがそのおもな例だと思う。その憧れがある限り、首都を移転してもいずれ何十年たった後に、一極集中の問題が起きないとも言い切れないと思う。

  極端に言うと、国の中枢である都が、地方より上位にあることを当たり前のこととして受け入れる国民性を変えていくことこそ大切なのかもしれない。

 

 

〔10〕参考文献  

    

http//www.cijihonbu.metro.tokyo.jp/chosa/syuto/1-info/1-1-abc(14.9).html

     http//www.chijihonbu.metro.tokyo.jp/chosa/syuto/2-koukangae/1-kangae/page2/html

        「新都建設」堺屋太一著 (1990) 文藝春秋社pp99〜118

 

 

 

        4 http//www.shu-kokkaiiten.go.jp/index2.html

        5「首都移転論」大坂健 著  (2002)  日本経済評論社