市町村合併の是非

社会学部 社会学科

C102157 酒向 明良

 

1.       問題背景

現在(平成14年4月現在)、3218市町村T)がある。平成17(2005)年3月31日に「市町村の合併の特例に関する法律」注1)(別名 合併特例法)の期限が来る。

期限まで3年を切った現在が合併を協議する上で最適な時期注2)となっているので各地域で議論となっている。また来春には全国各地で多くの市町が合併により誕生する。3)

また政府は合併支援プラン等により地方分権の受け皿づくりを目指す自治体の合併を推進している。本当に合併が地方自治の新たな切り札となるのか。そして合併がもたらす影響とは。

 

2.       報告目的

 2000年4月に地方分権一括法注4)が施行され、地方分権が現実に歩み始めた。21世紀は「地方の時代」,「市町村の時代」と位置付けられるD)という事を考えると住民にとって身近な総合的な行政主体である市町村の行政基盤を強化することが不可欠である。ここでは岐阜県中津川市と長野県山口村の合併を例に挙げて合併の是非を考えるとともに、平成の大合併の

 

3.       問題概要、基礎知識

 合併協議会設置がされている岐阜県中津川市と長野県山口村を例にして合併について考える。

 この合併は越県合併ということで全国的にも注目を浴びている。

 ◇基礎知識◆

 α.市町村合併とは

  A村とB町がひとつになってC市が新設されたり、D村がE町に編入されたりすることをいうA)

 

β.なぜ今、合併なのか

高齢化の著しい市町村(特に過疎地域)では財政が厳しく、住民1人当たりの負担が大きくなっている点と、国際化等に伴い住民へのサービスが多様化していることに対しての職員の教育,育成をするために葉期限(2005年3月)までに合併し、くいからの補助を受けながら、より効果的な行政運営を行う必要があるため。

 

γ.中津川市,山口村ってどんなところ

中津川市は岐阜県の南東部に位置する人口55,502人,面積275.98q2の市V),古くは中山道の宿場町として栄える。現在は東濃東部地域の中核都市として、躍進を続けている。X)

山口村は長野県の南西部に位置する人口2,057人,面積24.67q2の村V),生活圏が岐阜(名古屋)圏、明治時代の文豪・島崎藤村をはじめ、プロレタリア作家の葉山嘉樹や日本画家の最高峰・東魅魁夷など、文人墨客に愛された地である。X)

 

4.       合併のメリット,デメリット

 

メリット

デメリット

一般論

@        住民の利便性の向上

A        サービスの高度化・多様化

B        重点的な投資による基盤整備の推進

C        広域的観点に立ったまちづくりと施策展開

D        行政の効率化

E        地域のイメージアップと総合的活力の強化               

A.      行政区域の拡大,議員数減少により行政と住民との距離が拡大する可能性がある

B.       役所が遠くなり、行政サービスが低下する

C.       中心部だけが活性化して郊外が活性化しない

D.       慣れ親しんだ地名が消える

E.       合併しても過疎地域がなくなるわけではない             等        

今回の事例(山口村の意見〔一部改変〕)C)

F        生活圏が岐阜県にあり合併しても違和感がない

G        経費が削減できて行政の効率化が図れる

H        生活圏が拡大し近隣市町村と一体化する

I        地方分権及び少子高齢化に対応できる行政がつくれる

J        広範囲の公共施設が利用できるとともに重複施設が削除できる         等

F.       馬籠宿が(岐阜県に)越県してしまう

G.       長野の島崎藤村のイメージが消えてしまう

H.      中心部だけがよくなり合併する周辺部の地域の町村が取り残されてしまう

I.         行政サービスは低下しても行政は身近なほうがいい

  等

 

5.検討(メリット)

@住民の利便性の向上

→利用可能な窓口の増加により、住民票の発行などの窓口サービスが、住居や勤務地の近くなど多くの

場所で利用可能になる。@)

旧市町村界を越えた見直しにより生活の実態に即した小中学校区が設定できる。@)

利用が制限されていた他の市町村の公共施設(図書館、スポーツ施設、保健福祉 センター等)が利用しやすくなる。@)

Aサービスの高度化・多様化

→小規模市町村では設置困難な女性政策や都市計画、国際化、情報化等の専任の組識・職員を置くこと

ができ、より多様な個性ある行政施策の展開が可能になる。@)

従来、採用が困難又は十分に確保できなかった専門職(社会福祉士、保健婦、理学療法士、土木技師、

建築技師等)の採用・増強を図ることができ、専門的かつ高度なサービスの提供が可能になる。@)

  一般に合併の際、福祉サービス等の行政サービスは高い水準に、負担は低い水準に調整される@)

B重点的な投資による基盤整備の推進

→重点的な投資が可能となり、地域の中核となるグレードの高い施設の整備や大規模な投資を必要とす

るプロジェクトの実施が可能になる。@)

C広域的観点に立ったまちづくりと施策展開

→広域的視点に立って、道路や公共施設の整備、土地利用、地域の個性を活かしたゾーニングなど、ま

ちづくりをより効果的に実施することが可能になる。@)

D行政の効率化

→総務、企画等の管理部門の効率化が図られ、相対的にサービス提供や事業実施を直接担当する部門等

を手厚くするとともに、職員数を全体的に少なくすることができる。@)

三役や議員、各市町村に置くこととされている委員会や審議会の委員、事務局職員などの総数が減少し、その分経費も節減される。@)

広域的観点からスポーツ施設、文化施設等などの公共施設が効率的に配置され、 狭い地域で類似施設の重複がなくなる。@)

E地域のイメージアップと総合的活力の強化

→より大きな市町村の誕生が、地域の存在感や「格」の向上と地域のイメージアップにつながり、企業

の進出の若者の定着、重要プロジェクトの誘致が期待できる。@)

 政令指定都市や中核市の指定を受け、より総合的な行政を展開できる。@)

  地域の総合力が向上し、全体的な成長力や苦境を乗り越える力が強くなる。@)

F生活圏が岐阜県にあり合併しても違和感がない

→山口村の場合、日常生活のほとんどが中津川市をはじめとする岐阜県にあり、長野県内の近隣町村と

合併してもあまり効率が上がらないのが現状である。

  また山口村の行ったアンケートC)によると約45%の人が県境を越えて通学,通勤している

G経費が削減できて行政の効率化が図れる→D参照

H生活圏が拡大し近隣市町村と一体化する→C参照

I地方分権及び少子高齢化に対応できる行政がつくれる→A参照

J広範囲の公共施設が利用できるとともに重複施設が削除できる→D参照

 

6.検討(デメリット)

A. 行政区域の拡大,議員数減少により行政と住民との距離が拡大する可能性がある

 →地域ごとの公聴会、行政モニターなど従来からあるものだけではなく、旧市町村間の調整を図る「地域審議会」を設置し、合併前の旧市町村の意向に考慮できるようになってきている。小学校区などで住民が主体的に参加するまちづくりについても、「わがまちづくり支援事業」として総務省などが応援という形で支援している。
  選挙に際して、合併前の旧市町村単位での選挙区を弾力的に活用することも可能。インターネットの持つ双方向性機能などを考えると、「IT化」により、政治に対する新しい形での住民参加が可能となる。@)

B.役所が遠くなり、行政サービスが低下する

 →合併後も、それまでの市役所や町村役場は、引き続き新市町村の支所や出張所として活用できる、また、住民票の発行など地域ニーズの高い特定の事務を、地域に密着した郵便局が取扱うことが出来るよう、法律の改正が進められている。@)
   情報通信技術の発展により、近い将来、家に居ながらにしてオンラインで申請などが行えるようになり、空間距離は問題にならない社会になっていくことが予想される@)

  合併前の市町村間で住民サービスの水準、使用料及び手数料等が異なることはある。これらの問題は合併前の関係市町村間で話し合って決められるが、事務処理の方法の効率化等によってサービス水準は高い方に、負担は低い方に調整されるのが一般的である。@)
  また、合併により住民の負担が急激に増えないよう、所要の法改正等を進めている。@)

C. 中心部だけが活性化して郊外が活性化しない

 →合併前に、地域の住民のさまざまな意見を反映させながら、市町村間で合併後のまちづくりをどのように進めていくかを話し合い、中心部だけではなく、周辺部のことにも配慮したまちづくりの計画(市町村建設計画)をつくることができる。@)

D. 慣れ親しんだ地名が消える

→合併前の地域においてそれぞれ育まれてきた歴史、文化、伝統などについては、旧市町村の名称を市町村内の町・字名や学校などの公共施設の名称などとして残したり、合併を機に地域の史料館などを整備したりして、新市町村の貴重な財産として守っていくことができる。住民が地域の歴史や文化を見直すチャンスではないか@)

E. 合併しても過疎地域がなくなるわけではない

→住民の移住地が合併によって変化するわけではないため、このことは防ぎようがない。しかし、市(町村)自体の人口は増加し、財政面では救われる。

 さらに合併で中心部に人が流れてしまうことも予想され、過疎地域がさらに過疎化が進行してしまう恐れもある。C.にもあるが、市(町村)全体を配慮した市町村建設計画によって、住民が地域のことをもう一度考え直せる(見直す)いい機会ではないか。

 過疎地域に新たな環境を作れるいい機会でもある。

F. 馬籠宿が(岐阜県に)越県してしまう G.長野の島崎藤村のイメージが消えてしまう→D.参照

H.中心部だけがよくなり合併する周辺部の地域の町村が取り残されてしまう→C.参照

I.行政サービスは低下しても行政は身近なほうがいい→B.参照

 

7.総合的検討

 国から合併を勧告するということが自治権の侵害となってしまう、国は合併に関して支援という形でしか協力できないという問題が合併を進まなくしている現状がある。また、協議会を設立しても、物別れに終わってしまう自治体がいくつもある。これは、どうしても役所の位置を自分の市(町,村)に置きたいという意見や、新しい名称に自分の市(町,村)の名称を使いたい。といった思いがあり、なかなか協議が進まなくなっている。また市(町,村)名を決めたとしても、他の市町村と似た名前になってしまう問題も生じている。しかし高齢化の著しい市町村では合併による行政基盤に強化が必要であり、これから到来する高齢化社会に対応できるまちづくりをしなくてはならない。だがもっとも大切なことは住民の意見を尊重した合併をするべきである。このことが合併をなかなか進まなくしている原因のひとつとなっているが、合併で住民生活が変わる可能性があるのだから十分に住民本位の合併を目指すことが大切である。

 ただ、いくら合併をしたからといって過疎地域がなくなることはない。だが、合併後どのような政策を展開しいかに過疎地域をなくしていくかが合併や、まちづくりを考える上で大きな課題である。

 また今回の事例の山口村は1950年代後半の昭和の大合併で中津川市との越県合併の是非をめぐり村内の人間関係を分裂するほど激しく対立した歴史があり、このような歴史をふまえた上で、合併を考えなくてはいけない。ただ、昭和の大合併の時は村を分裂してしまっていることを考えると約半世紀ぶりに分裂していた村が合併される点では大きな成果と言えるだろう。6.のDで述べたように過去を風化させないためにも、歴史資料館などを建設するなど、合併で失うものを最小限にできる工夫を両市村に求めたい。そして合併で新たな歴史を築き上げるとともに、合併で得るものを最大限利用できるような施策を求めたい。

 

.私見

 市町村合併問題はとても奥深く難しい問題だが、将来的なことを考えると重要である。市町村合併の問題については行政だけが頑張っていても始まらない。住民一人一人が考えるべきことが重要である。そこで自治体によっては合併の是非や、合併先を問う住民投票が行われている。2002年9月29日に合併の相手先を問う住民投票が行われた秋田県岩城町では18歳以上の住民に投票権を与えた。長野県平谷村では中学生以上の住民に合併の可否を問う住民投票ができる条例案ができる等、投票権の年齢制限引き下げが目立つ。このことによって合併について幅広い年齢層に問うことができるようになる。その一方で、知識のない人(特に通常選挙権のない人たち)に投票権が与えられることにより、周りの意見に左右されてしまう可能性も示唆できない。しかし、投票権を拡大することは若い世代(これからの将来を担う人)の自分の住んでいる市町村への関心が高まるのではないか。

 合併には行政,生活を融合させて最適な合併を目指すべきであり、無理なら合併する必要はないが最終的な結論となってしまうが、合併することが今後の住民生活に大きな影響を与えることは避けられないので十分検討するべきである。しかし、合併しない高齢化の著しい市町村の財政はさらに圧迫され、市町村自体が破綻してしまう恐れがある。このような事態を避けるためにも、犠牲が大きくなってしまう可能性があるが、合併を推進していくべきである。合併が市町村生き残れる最後の策と言っても過言ではないだろう。

 これからは地方が国を引っ張っていく時代が到来するかもしれない。国からの指示で動く時代ではなく、地方が自ら発案し、実行するべきである。そのための第一歩が市町村合併ではないだろうか。市町村合併で財政基盤を強化し、他市町村と切磋琢磨しよりよい地方自治が行われることが期待される。

 最近では、県単位の合併による道州制の導入も検討されている。県単位の合併は市町村合併よりも困難を極めることは避けられない。そのためにも、市町村合併が成功したといえる結果を残せば、県単位の合併もうまくいくだろう。

 合併特例法の期限まで残り2年、もう一度、一から自分たちの一番身近な行政主体である、市町村を考えるいい機会ではなかろうか。特にこれからの社会を支えていく若い世代に関心を持ってもらい、さまざまな議論を展開していってほしい。

 最後にこの中津川市と山口村の合併が成功といえる結果を生み出してほしい。

 

.参考文献

a.        文献等

 T)2002年9月15日付中日新聞 中日サンデー版

 U)小西砂千夫:「市町村合併ノススメ-平成の大合併の自治哲学」『地方財政』1997年12月号

 V)全国市町村要覧 平成13年度版

 W)支障損合併支援プラン(平成13年8月30日 市町村合併支援本部決定)

X)朝日新聞 20021125日付 朝刊

Y)小西砂千夫:『市町村合併ノススメ』(ぎょうせい,2000年)

Z)中日新聞 20031月5日付 朝刊

 

b.        インターネット

 @)総務省                             http://www.soumu.go.jp/

  A)郡上郡町村合併協議会                 http://www.gujogappei.jp/

 B)首相官邸 市町村合併支援本部          http://www.kantei.go.jp/jp/singi/gappeisien/

 C)山口村                               http://www.takenet.or.jp/~vil_yama/

 D)中津川市・恵那郡北部町村合併協議会&中津川市・山口村合併問題協議会

http://www.g8-kayanoki.jp/

 E)Pol-Words NET [現代政治用語辞典]  http://pol.cside4.jp/

  F)Mainichi INTERACTIVEことば

http://www.mainichi.co.jp/news/kotoba/ka/20010113_01.html

 G)GLinGLin                              http://www.glin.org/glin/index.html

 

10.注

注1) 市町村行政の広域化の要請に対処し、自主的な市町村の合併を推進し、あわせて合併市町村の建設に資することを目的とするための法律で昭和40年3月29日 法律第6号として制定。@)

注2) 総務省によると庁舎の位置や新名称を決め、自治体間で異なる公共料金の統一などの協議が必要なため、法定協機関設置(その他に任意協議会がある)から22ヶ月程度を必要としている。@)

注3) 平成14年7月1日現在では2003年春に延べ21件の合併が成立する予定T)

注4) 地方分権改革の柱として、475本の法律改正案からなる法律。2000年4月1日から施行された。主な目的は、住民にとって身近な行政は、できる限る地方が行うこととし、国が地方公共団体の自主性と自立性を十分に確保することとされるE)

注5) 一部引用文は変更しています。

注6)今回扱った岐阜県中津川市と長野県山口村は山口村が中津川市に編入という形で2004年10月

  に合併する予定です。G)