2003年1月10日
c102158 佐々木 香苗
子と保護者から見る完全学校週5日制の必要性
【1】問題の背景
小・中学生、高校生のゆとりのある生活を確保するために平成4年から取り組みが始まり、そして今年の4月から完全週休2日制が実施された。この週休2日制が始まる前から保護者からは学力低下などの声が多く挙がり、逆に子どもたちは、休日が増えることを歓迎していた。
そして、実施されて半年が経った今、学力低下の声に答えるために塾には学校よりハイレベルな授業を望み、学習内容の削減への不安など多くの問題が浮き彫りとなっている 。また、公立学校と私立学校との学力格差が問題視されている 。
【2】報告の目的
私には小学生の弟がいる。その弟の新たに休日となった土曜日の過ごし方を見て、完全週5日制が実施される前と現在ではいろいろな面で違いが出ている事に興味が湧き、また、その親である母もまた考え方が変わっていることに気づいたのである。
よって、私の家族の意見を織り交ぜながら、今回は子どもの代表として小学生を取り上げて、親と子の立場から実施前と実施後の比較やメリット、デメリットを挙げ、実施後の実態を知り、完全学校週5日制の必要性を考える。
【3】 問題の概要
文部科学省によると完全学校週5日制は、子どもたちの生活全体を見直し、ゆとりのある生活の中で、子どもたちが個性を生かしながら豊かな自己実現を図ることができるように、
平成4年 9月〜月1回の休み (第2土曜)
平成7年 4月〜月2回の休み (第2・4土曜)
という形で段階的に実施してきた。
平成8年の中央教育審議会答申 においても、子どもたちに「ゆとり」を確保する中で、学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ、子どもたちに生活体験、社会体験や自然体験など様々な活動を経験させ、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」を育むため、完全学校週5日制の実施が提言された。
この提言を受け、平成14年度から完全学校週5日制を実施 。
【4】 週5日制導入前と導入後の比較
A 小学生の休日土曜日の過ごし方の比較 〜アンケート調査から〜
1.導入前
2001年の10月に県教育委員会が実施したアンケート 結果によると、
@ 実施前の過ごし方・・・テレビ・テレビゲームをして過ごす 70%以上
A 「新たに休みになる土曜日にどう過ごしたいか」(複数回答)の問に
1 位 友達と遊びたい 約70%
2 位 ゆっくり休養 約60%
最下位 ボランティア活動 1%
B 「誰と過ごすか」(複数回答)の問に、約82%が「家族」、「一人で過ごす」
が約4分の1をしめた。
C 学力低下について「心配ない」と言う意見が、約78%。
*このアンケート結果は、他のHPでも同じようなアンケートを行っており、その
中の一つを抜粋した為、他のアンケート結果と少し違ってくる可能性もあること
を了承していただきたい。
2.導入後
全国学習塾協会が一学期後の8月1日から9月10日にかけてアンケートを実施。同協会会員の学習塾に通う小学生3544人の回答 によると、
@ 過ごし方
1 位 塾や習い事 43%
2 位 家で過ごす(テレビ・ゲームなど) 26%
3 位 友達と過ごす 16%
4 位 部活動・クラブ 9%
5 位 一人で外出 3%
6 位 その他 2%
7 位 体験学習・ボランティア 0〜1%
A 五日制導入により「非常に楽になった」「少し楽になった」と55%が答え
た。
また、墨田区教育委員会のアンケート によれば、小学生の8割が「有意義」と評価している。
3.比較結果
実施後は、学力低下の心配からか「塾や習い事をして過ごす」という率が上がってきている事がわかる。
また、実施前と変わらず「テレビやゲーム」が上位を占めているのが現状である。全国学習塾協会の伊藤政倫副会長 は、「全体的に家で過ごす子ども多く、五日制導入前よりも学習時間が減っているのではないか」と分析している。
B 保護者の導入前後の考え方の違い
1.導入前
保護者2662人が、県教育委員会のアンケート に回答した結果によると、「週休二日制導入に心配があるか」に対し、小学生の保護者の67%が「心配がある」と回答した。
心配の内容は、
・ 子どもが有意義に過ごせるか
・ 子どもが一人の時間が増える
・ 学校行事の削減
が挙げられていた。
また、学習内容3割減 による学力低下への懸念する意見も多くあり、そのため、「塾通いが増えそう」 という指摘もあった。
2.導入後
子どもの土曜日の過ごし方を見て、「テレビやゲームの時間が増えた」「夜更かしなど生活がみだれた」 などの意見がでている。
また、「ゆとり教育と言いながら、自治体で土曜スクールを開いたり、塾が栄
えたり、と少なくとも一貫していない。」「公務員の為の週休二日制でしょ」 などの「ゆとり教育」または、「週5日制」について疑問などを持つようになった保護者が多いようである。
3.比較結果
導入前後では、見た所ではあまり考えは変わっていないように見える。しかし、導入後は、子どもに対して以外に、制度自体の問題点に視点が広がりつつあるようである。
保護者にとっては、導入前以上に不安などが増えてしまったようである。
【5】 完全学校週5日制のメリット・デメリット
A メリット
《小学生》
・ 友達と遊ぶ時間が増えた 。
・ 生活に時間的なゆとりができた 。
・ 趣味や習い事、スポーツをする時間が増えた 。
《保護者》
・ 家族で出かけやすくなった 。
・ 親子のふれあい、会話が増えた 。
B デメリット
《小学生》
・ 授業の進みが速くなった 。
・ 塾に行くようになった。
・ 宿題が増えた。
・ 夏休みなどの長期休暇が忙しくなった。
《保護者》
・ 公立学校のレベルの低下 。
・ 子どもが時間をもてあましている 。
・ 土日に仕事が休めない家庭は心配 。
・ 公立学校と私立学校との学力格差 。
・ 子どもの一人遊びの時間が増えた 。
【6】メリットの検討
《小学生》
○「友達と遊ぶ時間が増えた」とは本当だろうか。
これはメリットとして挙がっているが、デメリットで「塾に行くようになった」や「宿題が増えた」と言っているので、その間に矛盾が生じている。
もし100人中8割が「友達と遊ぶ時間が増えた」と答えたとしても、365日友達と遊ぶ時間ではいけない。また、宿題が増えた、学力低下によって塾に行くなどにより、365日ずっと勉強時間でいいのかというと、それでもいけない。1日の中で、どれくらい友達と遊んで、どれくらい勉強するのがベストであり、その時間的割合を知る必要があるのがわからないため、はっきり言って、本当に友達と遊ぶ時間が増えたのか分からず、メリットとは言い難い。また、デメリットとも言えない。
○では、友達と遊ぶ時間が増えたかどうかがはっきりしないのならば、「趣味や習い事、スポーツをする時間が増えた」の意見もメリットとは言えないのではないだろうか。
すべての子供たちが趣味を持ち、習い事をし、スポーツをするとは限らない。また、一つでも何かに取り組んでいたとしても、趣味や習い事などにかける時間は人それぞれであって、1日の中でどれだけそれに時間を費やしているかなどわからない。
よって、先ほど述べたように、趣味などに費やす時間は人それぞれであって、個人差が出てくるものと思われるため、「時間が増えた」とはなんとも言えない。
それでは、
○「生活に時間的なゆとりができた」のか?
実際に時間的ゆとりは出来たとは思う。しかし、塾や習い事に行くことにより、せっかく出来た時間もそちらに費やされてしまっているのではないだろうか。子供たちの一週間の生活の中で自由な時間がどれくらいであり、それは週5日制実施前の子供の自由時間の統計と比較することが必要である。そして、どれぐらいの時間が子供たちにとって「ゆとり」があると感じるのかが分からないため、知る必要があると思う。
《保護者》
○「家族で出かけやすくなった」のか?
これは、休みが重なることで、親子でどこかに出かける機会が増えたことは言えると思うが、実際子供と休みが重なったとしても、親子で出かける家と出かけない家とに分かれるのではないだろうか。私の憶測では、小学低学年ならば家族で出かけることは多いと思うが、高学年になってくると友達で出かけることのほうが多くなるのではないだろうかと思う。
また、休日に塾に行く子供もいるとなると、家族で出かけることは難しくなるのではないだろうか。それと、デメリットで挙がっている「土日に仕事が休めない家庭は心配である」 という意見からも休みが重ならない家庭もあると思われるため、よって、これは家族それぞれの状況によって変わってくることであって、はっきりと家族で出かけやすくなったとは言い難いと思う。また、今後、調査が必要である。
○では、家庭それぞれの状況で違ってくるのならば、「親子のふれあい、会話が増えた」ということは本当に言えるのであろうか。この質問を100人にして、8割以上の人がYESと答えたとしても、どの程度からが親子のふれあいであるかということは、はっきりと言えない。家庭によっては、少ない会話かもしれない。または、どこかへ遊びにいく事や一緒にゲームをすることかもしれない。家庭それぞれに、大なり小なりのふれあいがあり、それが増えたか増えていないのかを判断するのは難しい。
また、「会話」については、「減少した」という意見もある。それは、幾つかの原因が考えられるが、その一つに、教師が授業を進めることに精一杯になり、熱意のある授業や工夫のある授業、子供が関心を持てることをすることが少なくなったこともあるのではないだろうか。子供が学校で起きたことを話すのは、親に聞いて欲しい事柄があり、それがその子供にとって1日の学校生活の中で、一番印象に残っているからなのだろう。また、休日では、ゲームやテレビをして過ごす子供もアンケートから分かるように多い。一人で1日の半分を過ごすことも少なくないと考えられる。そこに、どれだけ親子の会話の時間があるのか、はっきり言って分からない。よって、まだこの問題に対しては調査が必要である。
【7】総合的検討と総括
家族内での会話やふれあいが少なくなっている中で、土曜日が休みになったことで、家族で過ごす時間が増えたことはよかったが、それ以上に完全学校週5日制は、メリットよりデメリットの多さが目立っていることである。また、メリットとして挙げたものでも、これは絶対にメリットとは言い難いものもある。
特に、メリットとして挙がっていたものは、「時間や会話、ふれあい」であり、人それぞれの感じ方、時間の使い方、時間の差、家庭状況などが出てくる。これは、数値だけでは判断しにくいものであり、どれだけの時間をそのものにかければいいかなどの時間的割合がわからない。人それぞれの差がこのこれらの問題には関わっていると思われる。よって、メリットにもなったり、デメリットにもなるため、どちらが正しいのかをはっきりとは言えない。そのため、今後調査が必要であることが言える。
文部科学省が実施理由として挙げていた、社会体験・自然体験から「生きる力」を育むということは、子どもがそうした体験に関心を持つことが少なく、参加率が少ないことから、週5日制にした意味がなくなっているのである。
また、保護者も子どもも学力に縛られているという現状であると言える。授業時間が少なくなり、じっくり教えることができなくなったという負担や、「授業内容がかなり駆け足になり、宿題も多くなって子どもがいらいらしている。」 ということからも、子どもに対する負担が大きく、「完全学校週5日制」=「ゆとり教育」とは言え難い。よって、完全学校週5日制の必要性はない。
【8】私見
完全週5日制とは、子供たちに「ゆとりのある生活」を作り、「生きる力」を育むための教育全体の在り方を改善するための方策でありながら、その意図とは反対に子どもたちは休日を過ごしているのが現状のようである。
私はこの完全週5日制、「ゆとり教育」に対して矛盾を感じているのである。保護者との意見と近いのだが、大学生のレベルが落ちていると言われ、大学入試は年々難しくなっていると言われている。それなのに、学力面での基礎となる小中学生の学習内容3割減はいいのだろうか。事実、弟の算数の教科書を見せてもらったが、自分の時と厚さや内容が薄くなり、簡単になっているのである。そして、私立学校は独自のシステムで行うので、公立学校の格差が出てもおかしくはない。また、学力低下が叫ばれるのは当然のような気がする。
実施してから9か月がたった今、文部科学省は、小中学生対象に6年ぐらい前に実施した学力問題と同じ問題を今年1月から2月にかけて実施した。前回の解答と比較したといころ、46%の問題で前回より正答率が低下しているという結果が出た。特に、基本的な問題で正答率の低下が目立った。とある。これは、まさに週5日制と、教科内容三割削減した新学習指導要領の実施の結果だと思う。もうすでに、学力低下は進んでいるのであることを確信し、また、「ゆとり教育」の批判も拍車をかけたのではないだろうか。
また、文部科学省などのお役人は、もっと現実を見るべきではないだろうか。こうした制度を実際に行うのは国民であって、制度自体の善いか悪いかを一番知っているのも国民である。よって、今回の完全週5日制は、国民から批判の声が多かったということは、もう一度審議し、明確なヴィジョンを持って政策を練り直す必要があるのではないだろうか。
実際に小中学生の学力低下は目の見えるところまで進んできてしまっている。時間は待ってくれないため、早期にこの問題に対応し、対策を考えるべきである。
【9】参考文献
a 文献
@)2002年11月5日(火曜日)付中日新聞朝刊 教育之新聞 P10
A)2002年12月14日(土曜日)付中日新聞朝刊 一面
b インターネット
1)本音バトル http://www.mdwalker.com/oshaberi/batoru_main10.html
2)文部科学省 http://www.mext.go.jp/
3)千葉日本新聞 http://www.chibanippo.co.jp/
4)朝日新聞社 http://www.asahi.com/
5)バトルon the web http://www.tbs.co.jp/ac/on_web/idea00043.html
6)学校週2日制 http://www.na.rim.or.jp/~tomoyan/syukyuuhtml.htm
7)リサーチ2 http://research2.hi-ho.ne.jp/resuit/shuu2/page3.html
8)リサーチ2 http://research2.hi-ho.ne.jp/result/shuu2/page4.html
c 参考意見
T)弟 小学6年生
U)母
注)文部大臣の諮問により、教育、芸術、文化の重要施策について調査・審議し文部大臣に答申するもの。