福祉ボランティアの課題と今後の展開

2003110

社会学部 社会学科 c102159 笹野有紀

 

[1]  問題の背景

 

 1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災により行政の機能が麻痺状態となり、被災者の救助活動のため日本全国から多数のボランティアがかけつけその活動がメディアをつうじて広く人々に共有されることになった。この災害の年は、「ボランティア元年」と言われ、またこの変化は「ボランティア革命」と呼ばれた。そして、それ以降の状況を見ると社会におけるボランティアの意味は重要性増すと同時に多様化しつつある。

 NPO法 1や介護保険制度の制定により、福祉の分野に多くの課題が生じてきている。

 

 

[2]  報告の目的

 

 日本のボランティア活動の特徴としては、「高齢者を対象とする」ものが圧倒的に多く、2020年には65歳以上の人口が全人口の25%以上になると予想されている高齢者社会、そしてまだまだ理解と協力の足りない障害者問題、福祉の中でも特にこの2つの問題に注目をおいて、これらに対するボランティア活動の底辺を拡大するためにはどのような問題があるのか、今日の現状と今後、またどんな制度改革や政策が必要だと思われるのか、考えてみたい。

 

 

[3]  基礎知識と問題の概要

 

 ボランティア活動−自由意志にもとづいて自発的に無償で、困っている人を助けるという人道的な配慮の基づく行動であり、社会的に直接的に関係のない人を助けることである。

 

ボランティアをめぐる現在の実態と環境

 

現在のボランティア活動は全国に3368ヵ所設置された社会福祉協議会を窓口として地域に密着した福祉の推進を行っている。「社会生活基本調査」(総務庁統計局)によると1996年の社会奉仕活動への参加率は25%で、またNPO研究フォーラムにおける調査では、ボランティアの年間平均参加日数は2.1日、平均参加時間は5.8時間である。*1

このようにまだまだボランティア意識は低いが、しかし最近では一部の企業ではあるが「ボランティア休暇」や「ボランティア休職」(数週間の有給休暇、または半年からに2年の休職を認め終了後の復職を保証)を導入している。

 

 

<福祉ボランティアの今後の課題>

 

○高齢者とボランティア

長寿社会の進行、要援助高齢者の大量の形成という状況においてボランティア活動に次のような問題が生じてきている。

 

・単発的なボランティアではなく、長期的に継続した活動が求められる。*2

 

・対象となる人の人数が将来著しく増大することになり、高齢者対象のボランティア活動を開始していくには持続的、継続的にボランティアを新しく大量につくり出さなければならない。*2

 

・活動の内容に介護技術等の専門性が要求され、研修や教育が必要になる。*

 2   

 

・行政や医療機関等との連携が必要となり、ボランティア団体が保持しなければならない機能として、高度な調整能力が要求される。*2

 

・かつて老人介護などというものは家庭の中でする仕事であり、主に女性に押し付けられてきたが現在では、女性の解放と人権が重視させてきたことにより、専門的な知識を持った介護のプロにより職業化(有償ボランティア)されつつある。

 

・介護を受ける立場からするとボランティアによる無料の介護よりも高い技術を持ったプロの介護士に介護されたほうが、安心して受けられる。すると専門的知識と技術を持たない一般のボランティアの活動は、プロの介護士の職業の障害となる場合がある。

 

 上に挙げた問題が全てではないが以上の点を考えてみると、ボランティア活動といえども合理的な効率を追求しなければならない。そして、それは何らかの組織化、制度化が必要となってくる。果たして、これはボランティアの本来の精神である自由意志による自発的な行為といえるのだろうか。今後のボランティア活動は高齢化社会とどう向き合うべきなのか大きな課題として残る。 

 

 

    障害者とボランティア

高齢化社会の急速な進展などに伴い、国民の福祉サービスへの来たいいが増大しているが、障害者への教育面や地域における福祉対策なども今度の大きな課題となっている。

 

    学校におけるボランティア教育の推進を図るとともに障害児(者)に対するボランティア活動への参加機会を増やす。*5

 

    「学童・生徒のボランティア活動普及事業」を推進し福祉協力校の児童生徒の福祉に対する正しい理解と認識を深めるようにする。*5

 

    障害者分野は専門性が求められるサービスが多く、ボランティアなどの人材の確保は障害者サービスの根幹を支える重要な課題となるため、*6 社会福祉協議会が開催する「ボランティアスクール」や生涯学習活動等を通じ、ボランティアの発掘、育成に努める必要がある。*5

 

    障害者が地域社会の中で自立した生活を営むために、地域住民に自主的、自発的なボランティアによる社会福祉活動への参加と協力を一層促進していく必要がある。*5

 

    NPO、ボランティアの活動範囲を広げ、行政との新たな協働関係を作っていく必要がある。*7

 

これらの点でも見られるように関係分野の連携を強化するとともに社会福祉法人などの民間団体との連携や支援をしていくことが必要となってくる。またそれ以前にもっと国民一人一人が障害者問題について理解と協力を深め、一人でも多くの人が福祉ボランティア活動の参加することが望まれている。

 

 

[4]  総合的な検討と総括

 

 ここ数年の間に、福祉ボランティアに新たな可能性が見えてきた。日本でも介護保険制度ができ、あわせてNPO法が施行されてきた結果、これまでボランティア活動に力を入れてきた人たちにサービス事業者として独り立ちできる道が開かれた。サービス事業者は、介護報酬や利用者からの料金収入財源に有給職員を雇用して介護事業を展開している。このように、営利法人も含む様々な事業者が展開することにより、質の向上と効率化が同時に進んでいくことになる。そして高齢者介護の問題、障害者問題、両者ともに言えることは、福祉ボランティアに興味を持つだけでなく実際に参加する人が少しでも増えることが願われている。

福祉ボランティアは、さまざまな制度改革や人々の自発的なボランティアへの参加によってその底辺を大幅に拡大することになるだろう。

 

 

[5]  私見

 

 アメリカなど他国に比べてボランティア活動率が低い日本でも組織や制度の改正によってボランティア活動への前向きな考えが見られることがわかった。しかし、その半面効率のよいボランティアを求めすぎて一般の人々がボランティア活動に簡単に参加しにくい環境がうまれていることも、もう少し考えていくべきだと思う。ボランティアというものは本来、自由な意思のもと自発性にもとづいて困っている人を助けようとする気持ちが原点で行う行為である。その本質を忘れてはいけない。

 また、高齢者介護の問題や障害者の問題は私たちの身近なところで常に起こっている問題といえる。そのためこのことに興味を持つ人は比較的多いみたいだが興味本意で参加しているのか、長期間の本格的な参加はまだまだ少ない。高齢者の介護などは長期にわたるボランティア活動が重要となってくるため、本当に困っている人を助けようという意志を待って長期間活動できる参加者が増えることを私は望む。

 

 

 

 

 

−参考文献−

 

*1 「ボランティア学のすすめ」 内海成治  2001年 昭和堂

*2 「高齢化時代のボランティア」 田中尚輝  1996年 岩波書店

*3 「自分スタイルのボランティアを見つける本」 大勝文仁、山田由佳  2001年 山と渓谷社

*4 「現代社会とボランティア」 野尻武敏、山崎正和、ハンス・H・ミュンクナー、田村正勝、鳥越ひろゆき    2001年 ミネルヴァ書房  

 

インターネット

*5

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/law/pref_plan/xp24/xp2402/xp240203.hym

    6

http://www.city.katsushika.tokyo.jp/keikaku/syougaisya/3.html

    7

http://ww.chijihoubu.metro.tokyo.jp/keikaku/2000/kakuron/1/k5-2.htm

 

 

注1)    NPO法     特定非営利活動促進法。保険・医療・福祉、社会教育・

環境保全などの12の特定非営利活動がある。20013

月にはすでに3600を超えるNPO法人が認証されてい

る。