アルバイトに年齢制限は必要か否か

2002年12月19日完成

社会学部 社会学科 c102161 薩川 敬章

 

〔1〕 問題の背景

 

   現在の日本では労働者(雇われる側)に対する保護法などができ以前よりも働きやすくなっている。しかし年々悪化する不況のために使用者(雇う側)と労働者の関係は「人を選べる」という観点から考えると比較的使用者が有利になっている。今や労働者は使用者の条件を満たさなければ働くことはできない時代になってしまった。その流れは就職戦争に直結した世代だけではなく、小遣い欲しさに働こうとする未成年の世代にも広まっている。条件には様々な形があるが、使用者がだす条件の中でひとつだけ曖昧なものがある。それが年齢制限だ。年齢により人を判断することはある種の差別的な要素を含んでいると思われるがこれがなくなることはない。未成年が小遣い稼ぎに行う労働はアルバイトと呼ばれる短期労働が一般的だが、果たして正社員とは違うアルバイトに年齢制限が必要なのであろうか。

 

〔2〕     報告目的

 

   私たち日本人は必ずしも必要ではないことを知らない間に了解してしまって、後からそれが一般的なものと解釈されていることが多い。年齢制限の問題もこのひとつである。果たして働くことに年齢が関係あるのだろうか。このレポートを通して、問題の現状を知り、曖昧になりつつある仕事に対しての年齢制限が今の社会に必ずしも必要であるかどうかをはっきりさせたい。

 

〔3〕 a.年齢制限のあるアルバイトの割合                    

 

   新聞の折り込み求人誌『仕事情報 AiDEM』によればアルバイトで年齢制限をしている企業は全体で77.4%になるとあった。職種によりことなるが接客や事務などのサービス業での平均求人年齢は40歳前後、製造や作業系の職種で47.5となっている。最高年齢の平均が43.9と資料にあり¹⁾、最低年齢の平均が(最低年齢においてははっきりとした資料がなかったため)18歳(高校生不可)と仮定すると、その年齢前後の多くの若者(ここでは10代〜20代を若者と呼ぶことにする)、中高年(ここでは30代〜40代を中高年と呼ぶことにする)以外の人々が、年齢の壁にぶつかっていることがわかる。

 

 b.企業はなぜアルバイトを雇うのか                    

 

  @一般的にアルバイトとは正社員とは違い一時的な期間の労働を行うことをいう¹⁾。パートという言葉と以前は区別されていたが、今はほぼ同じ意味でとらえられている。

 

Aサービス業が増えた今日では24時間体制や、深夜まで営業する企業も珍しくない。そこで一日のうちの繁忙時間への対応、土〜日、祝日などの繁忙日への対応を考えたうえでアルバイトを雇っている¹⁾。人件費が割安である。社会保険等の負担がないなどの企業側のメリットがあるためアルバイトは正社員と比べ雇いやすい¹⁾。

 

@、Aより網掛けをしている部分がアルバイトの定義だと考えると企業が求める時間、曜日にある程度の期間働くことができるのであれば誰でもアルバイトとして働くことが可能なはずである。

 

 c.企業はなぜ年齢制限をするのか                     

 

  ・応募者を絞り込むため。(いきなり大勢の人々が集まると何かと大変になる。)²⁾

・全体の年齢バランスを保つため。(部下が自分よりも年上だと仕事がしにくい。)²⁾

 

これらが主な理由である。企業としてはなるべく面倒なことは避けたいという観点から年齢制限を行うことが多い。あとは企業にとって年齢制限をすることによりメリットはあるもののデメリットは無いに等しいので(人数が減るので、本当に優秀な人材を確保することができないというデメリットはあるものの特に影響はない。)年齢制限が無くなることはまずないと考えてよい。²⁾

  

 d.法律ではどのように捉えられているか                

 

   年齢の制限のことは労働基準法第56条では次のように定められている。

   

   使用者は児童が満15歳に達した日以後の最初の31日が終了するまでこれを使用してはならない。(映画や演劇、または一部の軽作業で行政官の許可を受けた職業については例外とし、その者の修学時間外において使用を認める。)@)

 

   これによれば、多くの人々が15歳以上になれば働くことができる。しかし求人募集をする際に最低年齢が15才からでなくてはいけないと言う事は今まで定められていなかった。しかし平成13年に雇用対策法が改正され10月1日より               

 

事業主は,労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときは,労働者の募集及び採用について,その年齢にかかわりなく均等な機会を与えるように努めなければならない。(雇用対策法第7条より)³⁾

 

  ということになった。法律上でも年齢による制限はいけないということになっている。

  しかしこの法律は努力義務を課しただけのものなので罰則などは挙げられていない。

 

e.なぜ年齢制限はなくならないのか                    

 

  法律で決まっているのになぜ年齢制限はなくならないのであろうか。それは次のような理由が考えられる。

 

     法律が改正されてまだ間もないこと

     年齢を理由にしなければよいという屁理屈的な発想³⁾

     法には定められていても罰則について触れられていないため³⁾

 

この3つが大きな理由と考えられる。特に2つ目の理由は法律が曖昧なため生まれてしまうものであるが、例えば使用者がある人物に対して本心では年齢に対して問題があると思っていても違う理由をつけて断れば法律違反にはならないということである。

 

◎なぜここまでして年齢にこだわる必要があるのだろうか。それは若者、中高年に対するイメージが関係していると考えられる。

 

 f.若者、中高年に対する企業側のイメージ           

 

若者

 

 @仕事意識の欠如

 

   学生援護会が1996年に首都圏の高校生を対象にアルバイトの目的を調査したところ「普段の小遣いを稼ぐため」、「高額な商品やファッションのため」という個人的な欲求を満たすためにアルバイトをするという意見が多かった。A)「社会勉強のため」という意見もあるものの前者に比べるとやや少ない。つまり多くの若者がアルバイトそのものに目的をもっているのではなく、その先にある欲求に気持ちが動いていることがわかる。B)

 

  A信頼性の欠如

 

   今の若者には「役割を果たすことができる」ということが一種の特技になるのかもしれない。それくらいに責任感という面においては信頼がおけない。2000年1月13日のある朝刊の記事⁴⁾ではこのようにコメントしている。

 

もし若年雇用を躊躇(ちゅうちょ)するとしたら、その理由は?という設問を見れば、なお一層深刻な若者像が浮かび上がっている。「仕事を教えてもすぐ退職する」(二六・一%)、「責任感がない」(二四・六%)、「社会的常識が不足している」(二一・四%)十社のうち二社余が、そんなことを感じている。 その他にも「遅刻・欠勤が多い」「注意すると反発や落ち込みが激しい」「気配りができない」「覇気がなく消極的」など、若者に頭を抱える企業の姿が見えてくる。そのうえ企業側の事情で、「戦力化するまで育てる余裕がない」社が二割もある。

 

ここ数年で若者の評価はここまで悪化している。もちろん全ての若者がこれに該当するということは言わないが、企業からみれば多くの若者がこれに該当すると思われているようだ。つまり若者には意欲、態度の面でイメージが悪いということになる。

 

中高年者                              

 

@能力の問題

 

これも年齢ではなく個人の問題ではあるが、平均で考えたときに中高年よりは若者のほうが能力、資質、体力が上であると判断されている。²⁾またシフト制の企業では突然の人事不足の時などへの柔軟性の面、若者世代が多い仕事場での適応性などにおいても若者の方が優れていると考えている。⁵⁾

  

A金銭面

 

   中高年世代の一番の重要なポイントはこの金銭面だ。若者と違い家族の生活費を稼がないとならない主婦が多く、若者よりも高額な給料を望まれてしまうとどうしても若者優先に考えがまとまってしまう企業も少なくない²⁾。これも今までと同様全員がというわけではない。しかし中高年のイメージとしてはこの問題ははずせないものと考えられている。

 

   一向に終わりが見えない不況により中高年の世代は若者以上に年齢制限に苦しんでいる。その結果イメージとはいえそれを理由に仕事を断られたことのある人は少なくない。また中高年世代に要求されることが、「適応性」や「柔軟性」などのやってみないことには自分ではアピールできない部分のことであることもおさえておきたい。

 

 g.イメージを取り除く                        

 

   企業は、この不況に必死に立ち向かっている。同調査でも今なお、雇用調整のさ中にある企業の姿も見える。一部の若者の姿とはいえ、こうして不況にあえぐ企業の中に、否定的に評価される若者が存在するのは、なじまない光景ではないのか。⁴⁾

 

東京都目黒区に住む77歳の主婦が語った話によれば、当時68歳だった彼女があるパン屋の早朝の仕事をやるために面接を行った。夫からも(年齢の問題で)無理ではないかと言われたので不安だったらしいがその店の店長は「仕事ができれば年は関係ない」と言い彼女を採用した。彼女はその後、無遅刻を守り懸命に働いたと言う。今は店が潰れまた専業主婦にもどったが、あの時の出来事を今でも感謝している。X)

 

〔4〕 総合的な検討と総括

 

   今までは労働者をどのように雇おうと使用者の勝手だと言われてしまえばそれで終わってしまった年齢制限の問題は法律の改正により少しずつではあるが改善されている。年齢で人を判断してしまうのは差別であると感じた人達の声がいかに多かったかを物語っている。また実際にgの中でも取り上げた主婦のように能力と年齢が一致しなかったケースを見てみるとアルバイトと年齢そのものは関係ないと言える。しかしながらそれにより「必要ないか」と問われればそうではない。企業というものは一人の人間が作り上げたものであり、その中から賃金をだして仕事を頼むのだから慎重に人材を選ばなければ損をすることになる。つまり企業からみれば会社のためにはある程度の年齢制限は必要であるといえる。どちらも正反対の意見だが両者とも筋の通った意見である。そのためこの問題は現段階では1つの答えは導き出せなかった。

 

〔5〕 私見

 

   今回の調査で年齢と能力は関係ないということだけはわかった。すべては各年齢層への「イメージ」がそうさせてしまったのである。法律改善のため少しずつではあるがこれからの労働者は年齢に縛られることなく働ける時代になるだろう。しかしこの年齢制限の原因である「イメージ」は自分たちが作ってしまったものであることを忘れてはいけない。私は「若者」と呼ばれる世代に存在するがその私でさえ今の若者は信頼性が薄れていると実感する。もはや「全員ではないが…」などの保護的な言葉は捨てて本当に一人一人が努力してこの悪評を改善しようとしなければまた違う分野でイメージによる判断が行われてしまうような気がしてならない。

 

〔6〕 参考文献

インターネット

 

1)「アイデム 人と仕事研究所」

http://apj.aidem.co.jp/default.htm

2)「働き盛りドットコム」

  http://www.hatarakizakari.com

3)「わーくわくネットひろしま」

  http://www.work2.pref.hiroshima.jp/

4)「社説」

  http://www.ryukyushimpo.co.jp/shasetu/sha10/s000113.html

5)転職マニュアル

  http://www.b-side.co.jp/biwajob/column/manual.htm

文献など

@)『デイリー六法2002平成14年版』 佐藤幸治 (2001) 三省堂 P1169〜1178

A)『日本の高校生〔国際比較でみる〕』 千石保 (1998) 日本放送出版協会 P139〜174

B)『若者のライフスタイル』 安藤喜久雄 (1998) 学文社 P77〜98

W)『仕事のなかの曖昧な不安 ゆれる若年の現在』 玄田有史 (2001) 中央公論新社 P21〜40 P72〜96

X)「朝日新聞」 2002年9月22日 朝刊 P16

         2002年10月29日 夕刊 P