住民基本台帳ネットワークシステム運用の是非

                               2003110

                         社会学部 c102145 近藤 慎吾

 

 

〔1〕問題の背景

 

 住民基本台帳ネットワークシステムは、200285日から利用が開始され、市役所や町村役場が住民基本台帳に住民の名前、住所、世帯主との続柄などを記録管理している。

このうち、名前、性別,住所、生年月日と一人ひとりにつけた住民票コードという11桁の番号をコンピューターに登録し、ネットワークでつないでいる。これによって自治体や

国の事務作業が効率化されるほか、住民票の写しを全国でとることができるなどのメリットがある。しかし、個人情報がしっかり保護されない恐れがあることや、倫理的にも人間に番号をつけるのは良くないなど、デメリットもあることから住基ネットはやめたほうが良いのではないか、と世間で騒がれている。

 

〔2〕報告の目的

 

2000年、8月5日から施行された住民基本台帳ネットワークシステムだが、私はつい最近までこのシステムがどんなものか知らず、自宅に住民票コード通知票が届いていることさえ知らなかった。私だけではなくきっと他にもまだ、自分の住民票コード(11桁の数字)を見たことがない人たちが大勢いるだろう。

 このシステムは、日本国民の大半が関わるとても重要なものであるにもかかわらず、国民の関心が少なく、あまり知られていないように感じる。そこで、私は少しでも多くの人にこのシステムについて考えてもらうため、そしてこのシステムが私たち住民にとって本当に必要なものなのかどうか確かめるため検証してみる。

 

〔3〕 対象とする問題の概要 *1

 

住民基本台帳ネットワーク稼動までの経緯

平成11818日   住民基本台帳法改正(ネットワーク化の開始)

平成1312月〜平成143月  総合運用テスト

平成14722日〜82日  住基ネット仮運用

平成1485日  住基ネットの第一次稼動

    ⇒行政機関などへ本人確認情報の提供開始

    ⇒住民への住民票コード通知開始

    ⇒各種申請、届出を行うときに住民票の添付が不要となる

平成158月  住基ネットの第二次稼動

    ⇒希望される方に住民基本台帳カードを交付(有料)

    ⇒住民票の交付が全国どこの市町村でも可能になる

    ⇒引越しの際の手続きの簡略化

      

〔4〕 問題に関するいくつかの視点からの検討

 

〔4〕−@  住基ネット運用によって可能になるサービス(メリット)の検討

  a.住民基本台帳事務の効率化 *2

◆住民票の写しの交付が全国どこからでも受けられる

……現在、住民票の写しの交付は今住んでいる市区町村や限られた市区町村間のみでしか受け取ることができないが、今後はこのシステムに参加する全国の市区町村で受け取ることができる。

 

    引越しの場合の手続きが簡略化される *2

……引越しの際に窓口に行くのが転入時の一回だけですむ。

現在、他の市区町村へ引っ越す場合には、住んでいる市区町村へ転出届を行い転出証明書の交付を受けたあと、転入市区町村で転入届を行う必要がある。しかし住民基本台帳カードの交付を受けている場合には、転出証明書の交付を受ける必要がなく転入市区町村で必要な住民票情報はネットワークを通じて転送される。

注)転入届を前の市区町村に郵送で届出する必要がある。

 

  b.住民基本台帳カードにより各種のサービスを受けることが可能になる *2

 ◆住民基本台帳は、セキュリティー上、極めて安全なICカードを用いることになっており、希望により市区町村長から交付される。

 カードには写真つきと写真なしの2種類が予定されており、いずれかを選択できる。写真つきは、身分証明書としても利用できる。

 また、窓口でカードによる本人確認が容易にできるため、なりすまし等の不正行為を防止できる。

 

c.恩給、共済年金などの現況届や各種資格申請時の住民票添付の省略が可能となる

3

 ◆具体的に見ると毎年現況届に添付するための住民票の写しが8,500万枚発行されているが、住民基本台帳ネットワークシステムによって、500万枚程度の住民票の写しが省略されると考えられている。 

 

 上記に住基ネットによって可能になるサービス(メリット)をいくつかあげたが、これらのサービスは住民にとって本当に必要なのか考えてみる。

 

    住民票の交付が全国どこからでも受けられるというメリットに対する疑問として、住民票をよその市町村からとる人はそれほどいないというようにも考えられる。 *4

    行政機関は申請・届出を行う際、住民票の写しの添付が省略できるというメリットに対する疑問として、住民票の写しを提出するように言われるときは、大体、戸籍謄本・抄本や印鑑証明なども提出を求められる。しかし、住基ネットはこれらの書類については省略できず、これらの書類が必要なら、今まで通り役所に交付を受けに行かなければならないので、住民にとってあまりメリットにはならないのでは、とも考えられる。 *4

    引越しの際の手続きが簡略化されるというメリットに対する疑問として、引越しの手続きは、今までのやり方でも多くの人は転出市町村と転入市町村の双方に行かずに転入市町村は1回行くだけですむので、これもあまりメリットがないというように、考えられる。 *4

このようにメリットと言われている物の中には、実際は住民にとってあまりメリットにはなっていないものがあり、住民にとって、住基ネットのサービスはそれほど必要性がないように考えられる。

 

〔4〕−A  プライバシーの保護という視点からの検討

  住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティー対策としては、制度・技術・運用の3側面から万全の個人情報保護(プライバシー保護)対策が行われている。

 

 a.制度面からの対策 *3

●住民基本台帳ネットワークシステムで保有する本人確認情報は、法律により「氏名・生年月日・性別・住所・住民票コード・これらの変更情報」に限定されている。

 

    住民基本台帳ネットワークシステムから本人確認情報の提供を行う行政機関や利用事務については、法律で具体的に規定されており、目的外の利用は禁止されている。

    民間における住民票コードの利用を法令で禁止している。

    関係職員等に対する「安全確保処置」及び「秘密保持」を義務付けている。なお、関係職員が秘密を漏らした場合は、通常より重い罰則規定が適用される。

(2年以下の懲役又は、100万円以下の罰金−通常は1年以下の懲役又は3万円以下の罰金)

    自分の本人確認情報については、開示の請求をしたり、訂正などの申し出を行うことができる。

 

b.技術面からの対策 *3

●外部ネットワークからの不正侵入、情報の漏れを防止する。

    安全性の高い専用回線でネットワークを構築

    通信データの暗号化

    ネットワークへの不正アクセスを防止するためファイアウォール・IDS(侵入検知装置)の設置

    通信相手となるコンピューターとの相互認証

    システム操作者の目的外利用を防止する。

    操作者のICカードやパスワードなどによる厳重な確認

    不振な操作に対する常時監視

    データ通信の履歴管理とログ(使用記録)の定期的な監査

  

  c.運用面からの対策 *3

 ●運用管理を徹底し、情報の漏れを防止する。

    本人確認情報管理規程

    職員等の秘密保持義務

    安全・正確性の確保に向けた関係職員への研修

 

 このように万全の対策を行っていてもいくつか不安な点が考えられる。

 

《不安な点》

    当初、住基ネットに利用される情報は氏名、生年月日、住所、性別、住民票コードの5情報だけといっていたが、実際には、「付随情報」として更新情報や履歴(結婚・離婚の前の姓など)も利用される可能性がある。

    個人情報保護に関する制度が万全になされていないのに個人情報を全国ネットで扱うのは危険すぎる。

⇒個人情報保護条例という個人情報に関する制度があるが、この条例を作っているのは昨年4月現在で、3288自治体のうち2161自治体で約66%だけで、要網さえない自治体が655もある。

    公的機関なら個人情報を集積しても安全かというと、現在、自治体などの公的機関から大量の個人情報が不正にコピーされ流出するという事件が後をたたないように、情報が漏れ出す恐れがある。

    人間がシステムを運用している限り絶対安全ということはありえない。

 

 このシステムの運用が始まってから情報が漏れたなどという目立った事件はないが、少しでも危険性があるのならこのシステムの運用は間違っているだろう。上記のように個人情報が漏れ出す恐れがあるので、プライバシーの面から見るとこのシステムの運用の必要性は低いと考えられる。

 

〔4〕−B  コスト面からの検討

  住基ネットのシステム導入には少なくとも約400億円かかり、毎年の運営コストも約200億円程度かかる。(自治省試算) *5

・構築コスト…3646600万円   ・運用コスト/年…1896800万円

  住基ネット導入による利益として、行政側の手続き簡素化などによる経費節減で約240億円、住民側の手続き時間の省略などにより約267億円が見込める。(総務省試算)

  この数字だけを見ると、住基ネットの費用対効果はかなり高いと言える。ただし算出方法に疑問点があり、住民側のメリットの計算で総務省は住基カードの利用が全体の50%に達したものと仮定している。しかし、住基カードは希望者にしか配布しない。住民の50%に普及するには、相当な時間がかかると思われる。あと、住基ネットの運用事務費に職員の人件費の増加分は含まれていない。

  

  豊田市で住基ネット導入にかかる費用 *6

 ・現在までの設備投資額・・・約365万円

 ・ネットワーク機器の年間リース料・・・約217万円

 ・年間維持管理費(機器メンテナンス、回線使用料など)・・・約540万円

  これだけの費用を使っても、行政事務の効率向上などの効果があったことは、自信をもって言えない、と豊田市は言っている。

 

 これらから住基ネット運用によって利益が出る可能性があることがわかるが、豊田市の意見からみると実際はコストだけかかって、それに見合った効果はあがっていないことが分かる。

 

 

 

〔5〕 総合的な検討と総括

 

 自治体や国の事務作業の効率化や住民票の写しが全国どこからでも受け取ることができるなどの住民にとってのメリットを考えて作られたこのシステムは、確かにメリットはあるが、それ以上にデメリットのほうが目立ってしまっているというのが現状のようである。

 とくに目立っているのがプライバシーの問題である。セキュリティー対策がしっかりしていることは分かったが、いくら厳重に管理したとしても情報が漏れ出す恐れがあり、絶対安全とは言い切れないのである。絶対安全と言い切れない限りこのシステムに対する不安はなくならないと思われる。

 また、コスト面では、豊田市が言っていることから分かるように、このシステムに多大な費用をかけるのは間違っていると考えられる。

 これらのことから住民基本台帳ネットワークシステム運用の必要性はない。

 

〔6〕 私見

 

 このシステムについて検証してみて、私はこんなことする必要はないと思った。メリットといわれていることはそんなに私たちにとって役立つものではないし、デメリットのほうが断然多い気がした。特にプライバシーの問題が目立っており、これからこのシステムを運用していく上で一番の課題だろう。

 個人の情報がいろんな所に出回って、悪用される可能性もあるし、これから先、もっと細かな個人情報が国に管理されることも考えられる。まるで国からストーカーされているようになるかもしれない。だんだんと個人のプライバシーというものがなくなっていくのではないだろうかと思った。

 このシステムにはたいしたメリットがないにもかかわらず、多大なコストをかけ、プライバシーさえも危険にさらしているのである。今後このシステムを運用していくには、セキュリティー面の向上などの様々な問題点の改善が求められてくるのではないだろうか。

 

 

 

〔6〕 参考文献

    1  http://211.130.92.61/section/section4/section420020902190655.html

    2  http://www.lasdec.nippon-net.ne.jp/rpo/rss/gaiyo0625.pdf

    3 http://www.soumu.go.jp/c-gyousei/daityo/020625-1.html

    4 「住基ネット」とは何か? 櫻井よしこ・伊藤穣一・清水勉著 2002930日発刊 明石書店            

    5 http://www.joy.hi-ho.ne.jp/ozonnet/jyukinet.htm

    6  サッカー場問題を忘れない!とよた市民の会 が街頭で配っていた資料

    ⇒代表 岡田耕一

     事務局・連絡先  小林 収 方

      豊田市寺部町378  TEL 805323  FAX 891620