核燃料サイクルについて考える

経済学部 経済学科

E103231 寺西菜摘

 

背景

 便利になっていく生活とともに電気需要が高まっていることは、資源小国日本にとってとても大きなエネルギーの不安をもたらしています。安定した電気供給を行うために日本がとった方針は、電気供給の3分の1以上を、比較的エネルギー資源の輸入が安定しているとされる原子力発電にしていこうとするものでした。

 

目的

 高速増殖炉・プルサーマルの問題点を把握し、エネルギー政策上の必要性について考える。

 

目次

1 核燃料サイクルとは

2 高速増殖炉の検証

@     高速増殖炉とは

A     高速増殖炉の危険性

B     高速増殖炉の経済性

3 プルサーマルの検証

@       プルサーマルとは

A       プルサーマル計画の危険性

B       核拡散の危険性

C       プルサーマルのリサイクル率

D       プルサーマルの経済性

まとめ

 

1章           核燃料サイクルとは

 核燃料サイクルとは,原子力発電所から出る使用済燃料を再処理し,有用資源を回収し,再び燃料として利用することです。(1)

 原子力発電の燃料であるウランには二種類のものがあり,「核分裂する」ウラン235と「核分裂しない」ウラン238があります。天然ウランに含まれるウラン235の割合は約0.7%と少なく,大部分(99.3%)は「核分裂しない」ウラン238です。原子炉で燃料として使用するときは,ウラン235の割合を35%に濃縮したものを使用しますが,それでも大部分は「核分裂しない」ウラン238です。

 しかし,このウラン238は中性子を吸収するとプルトニウムへと変化します。生成されたプルトニウムには核分裂性のもの(主にプルトニウム239)が約70%含まれており,燃料として使用することができます。

核燃料サイクルとは,「核分裂しない」ウラン238を「核分裂する」プルトニウム239に変え,燃料を繰り返し利用することです。

 

 

 

2章            高速増殖炉の検証

2−1 高速増殖炉とは

 高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、発電しながら消費した以上の燃料を生み出すこと(増殖) のできる原子炉であり、現在の軽水炉などに比べて、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができます。

 ウランの大部分を占める、「核分裂しない」ウラン238に高速の中性子をぶつけ、プルトニウムに変化させます。そしてこの中性子が「核分裂する」ウラン235にもぶつかり、核分裂によって発電エネルギーを生み出します。資源を増やしながら発電もしてしまおう、という一石二鳥の原子炉です。

 高速増殖炉とは、高速で増殖するという意味ではなく、核分裂で高速の中性子を使うという意味なのです。

 

2−2 高速増殖炉の危険性

@ 核暴走の可能性

 プルトニウム燃料は、ウランに比べて核分裂しやすく、そのため核暴走しやすく、核暴走のスピードも大きいです。

 フランスの高速増殖炉(原型炉)フェニックスでは、たびたび核分裂反応の暴走事故が発生し、出力上昇が100分の5秒という短時間に起こりました。しかし、いまだに原因が正確に解明されていません。

A 炉心溶解事故の発生

 炉心の出力密度、核燃料密度がとても高い為、わずかな炉心崩壊時であっても急速な臨界反応により、核爆発を起こす可能性があります。

B ナトリウムの危険性

 燃料から熱を奪うために使われるナトリウムは、金属パイプの壁一枚を隔てて、発電用に水蒸気を発生させる水と隣り合っています。しかしナトリウムは、水と反応して爆発炎上し、高温であれば空気とも反応して炎上するという性質を持っています。

 さらに腐食性が大きいため、配管事故が起こりやすく、大事故に進展する可能性が高いです。

 フランス、ドイツ、イタリアではナトリウムによる事故が起き、高速増殖炉を断念するに至りました。

D 耐震性

軽水炉の水蒸気温度がほぼ300℃であるのに比べて、増殖炉ではナトリウムが500℃以上、水蒸気温度も500℃近い高温となります。比熱は、Naは水と比較して小さいので、運転を停止した時には温度の低下が激しいです。というわけで、高速増殖炉では運転温度が高いだけでは無く、温度の上下が激しくなります。

このため、配管など全てにおいて伸縮・熱衝撃に耐える様にする為に出来るだけ薄く設計されています。このような設計で地震等に耐える為に機械的強度を確保するべく厚くするということは矛盾しており、当然、地震にも大変弱い作りになっています。

 

2−3 高速増殖炉の経済性

高速増殖炉にはまだまだ無数の技術的な問題点があり、解決するためには莫大なコストがかかります。そのコストは結局、電力価格に跳ね返ってくることになり、他の発電法に比べると電力商品として競合できないという問題に直面します。経済性を成り立たせるためには、技術的な問題への妥協が求められ、とても危険な状況になります。

「もんじゅ」の建設費では、当初の計画での約16倍である5900億円へ膨れあがり、プルトニウム燃料開発を含む、高速増殖炉の開発全体では1兆5959億円という巨額の税金が投入されています。

これで得た発電などの収入は、わずか6億円に過ぎませんでした。

しかも、ナトリウム火災事故発生後は、配管に流れているNaを管理しなければならず、電気を1Wも生み出さないでありながら、99年までの4年間で600億円を浪費、高速増殖炉の関係予算合計では1200億円を食いつぶす結果となりました。

今後、もし「もんじゅ」が運転を再開することがあっても、Naの取り扱いは危険性が高いため、わずかなトラブルでも、運転・補修経費が非常に大きなものとなり、採算が取れないことは明白です。

 

3章           プルサーマルの検証

3−1 プルサーマルとは

 プルサーマルとは,既存の軽水炉でプルトニウムを燃料として使用することです。

 使用済み核燃料からまだ使えるウランや新たに生まれたプルトニウムを再処理工場で分離・回収し,プルトニウムを49%使用した「MOX燃料」(プルトニウム混合燃料)を使い,ウラン資源の利用効率を高めるものです。

 

3−2 プルサーマル計画の危険性

@       核暴走の可能性

資源エネルギー庁は「ウランしか含まない燃料を用いている現在の原子力発電所でも、発電中にウランの一部がプルトニウムに変化して燃えており」(1)危険ではないとしていますが,今までの軽水炉ではプルトニウムが均一に燃えていたのに対して,プルサーマルではMOX燃料棒と従来の燃料棒が不均一に配置し,MOX燃料集合体とするため,プルトニウムがこれまでにないほど高濃度になり,暴走の危険性が高まります。

また,プルトニウム燃焼を想定していなかった既存の軽水炉でのMOX燃料使用への不安もあります。

 そんな中,青森県に建設される大間原発では、世界で初めてのフルMOX原発が予定されています

A 事故発生時の制御棒能力の低下

1993年に女川原発一号炉が地震のため出力が急上昇し、自動停止したことがありました。

 静岡県の浜岡原発でも使われている沸騰水型の原子炉では、沸騰する水の中の気泡と中性子の関係が地震の揺れにより大きく変化し、核暴走の可能性があることがわかっています。過去の異常では制御棒が自動的に挿入され、大事故には至りませんでした。

 しかしプルトニウムが大量に使用される場合には、プルトニウムが中性子を吸収しやすいため周囲の中性子は極端に減っており、緊急時に制御棒を挿入したとしても、中性子を吸収し核分裂を停止させるためには今までよりも時間がかかることになります。もしプルサーマル運転中に地震が起こったら、ほんの少しの停止機能の遅れで、チェルノブイリのような大事故が発生する可能性が高くなるのです。

B 燃料棒が破損する恐れ

フランスの実験炉で、長期間にわたってプルトニウム燃料を核分裂させると、燃料棒内でのガス発生率が高くなり、燃料棒を破裂させる危険性が高くなることが明らかにされています。

 フランスではカブリ炉でのプルサーマル実験以来、MOX燃料棒の危険性が証明されたとし、1997年にプルサーマル計画にストップをかけ縮小へと向かっています。

C 実証データの少なさ

  プルサーマルの国内実績は6体といわれています。美浜1号で4体、敦賀1号で2体です。しかしこれはごくわずかなプルトニウム燃料集合体をテストしただけであり、現実では国内での利用実績はないというのが実情です。

 以下の表は、実証試験での実績値と高浜原発プルサーマルで計画されている条件を比較しています。

 

MOX集合体数比

集合体平均付加度(核分裂性)

燃焼度(MWd/t

美浜1号

4/121=3.3%

3.11%

24.000

敦賀1号

2/308=0.65%

3.18%

26.400

高浜4号

40/157=25.5%

6.1%

45.000

 福井県にある高浜原発で計画されているプルトニウム使用量は、世界でも未経験の運転です。海外でも過去の実績は30万キロワット以下の小型原子炉がほとんどであり、唯一、大出力でプルサーマルを実施したドイツも「プルトニウム利用の完全放棄」の道をとり、日本の模範となる実績データはほぼありません。

D 事故時の被害拡大の危険性

 プルサーマル運転によって、原子炉内の放射性ヨウ素とトリチウムの発生量が増大します。ヨウ素は原発事故時にガスとなり、小児甲状腺ガン等のチェリノブイリで最も大きな被害をもたらしたものです。トリチウムは放射性水素で、あらゆる生物の体内に侵入します。この他にも、放射性寿命が長く毒性の高い物質が増加し、これまで以上に原子炉の危険性が高まります。

 

3−3 核拡散の危険性

 プルトニウムは数キログラムというごくわずかな量で、簡単に核兵器へと転用できます。そのためアジア諸国も日本の保持するプルトニウムを警戒し、軍事的緊張を高める原因にもなります。

また、核拡散と関連した国際公約から余剰プルトニウムは持てません。この国際公約は日本がプルトニウム利用を進めていく上で守らなければならない公約です。

しかし、現在日本には余剰プルトニウムを20トン以上保持しており、仮に計画されているプルサーマルが円滑に行われたとしても、余剰プルトニウムをプルサーマルのよって消化することは不可能だといわれています。むしろ、再処理によってプルトニウムは増え続けます。

 

3−4 プルトニウムのリサイクル率

@     ウランに置き換わるプルトニウム量

 プルサーマル運転でプルトニウムがウランに置き換わる実質の量は8%でしかありません。

A MOX燃料の再処理の現状

 プルサーマル運転によって出てくる使用済み燃料の再処理技術は現在の日本にはありません。これからの研究課題でもありますが、コストの問題もあり、開発は極めて困難です。

A     プルトニウム保有量

 プルサーマル運転を行っても、また新たにプルトニウム燃料が発生してしまうので、いつまでもプルトニウムは減少しません。六ヶ所村の再処理工場が運転を開始すれば、年間5トン以上の核分裂性プルトニウムが生産され、プルサーマルでは消化不可能となります。

 

3−5 プルサーマルの経済性

 プルサーマルに費やされるエネルギーをざっと挙げてみると、再処理工場の建設、ウランとプルトニウムの回収、膨大な量の高レベル放射性廃棄物の発生、プルトニウム燃料の製造と輸送、原子炉の燃料配置の設計変更、無数の危険性対策など、「数パーセントのウラン節約」では、引き合わないほど大きなものとなります。

 原子力発電を前提にした場合でも、資源の浪費を加速し、人類に大きな負担をかける行為であり、消費者に安定して電力を供給する手段として、経営上不適切です。

 

まとめ

 高速増殖炉の展望は不可能だと私は考えます。

 プルサーマル計画でも、運転すればするほど危険なプルトニウムを国内に溜め込み、所詮ウランの73年とされている賦存量を1年増やすかどうかだけではプルサーマルのデメリットが大きすぎます。

 危険で経済性もなく、リサイクル効果も期待できない訳で、このような計画はすぐ中止するべきであると考えるのが妥当でしょう。余剰プルトニウムはガラス固化するのが適当です。

 資源エネルギー庁は,独自の国産資源を得る,電力の長期的な安定供給,確実な技術である,以上の三点がプルサーマルを政策として行う理由として挙げ,プルサーマルの早期実施が必要であるとしています。しかし,核兵器の転用が危惧されるプルトニウムが増えつづけ,技術的にも問題点が多く,経済性も成り立たない核燃料サイクルは,行うべきではないと考えます。

 核燃料サイクルという名のプルトニウム利用は中止し、原子力政策の整合した見通しを立て、国民の合意を図るべきであると考えます。

 

解説

     原子力発電の仕組み

  ウランに中性子が衝突すると、原子核が分裂し熱を出します。この熱を利用して蒸気を作り、タービンを回すのが原子力発電の原理です。

     軽水炉

 日本で最も多く運転・建設されている原子炉は、減速材と冷却材として普通の水(軽水)を使っている軽水炉です。

 軽水炉のうち沸騰水型の原子炉を使っている原子力発電所を沸騰水型原子力発電所(BWR:Boiling Water Reactor)と言います。また、加圧水型の原子炉を使っている原子力発電所を加圧水型原子力発電所(PWR:Pressurized Water Reactor)と言います。BWRでは原子炉圧力容器の中で水を蒸気にしますが、PWRでは原子炉圧力容器から取り出した高温高圧の水を蒸気発生器に通して蒸気を発生させます。

     もんじゅ

 福井県にある高速増殖炉です。1995年にナトリウム火災事故を起こしました。しかし2000年3月、原告側が運転停止を求めてきた「もんじゅ訴訟」で電力業界側が勝ち、増殖炉開発は現在も進められています。

     制御棒

 原子炉内の中性子密度を一定に制御するために出し入れする棒。中性子を吸収しやすいカドミウム・硼素などで作る。

 

参考資料

()核燃料サイクルのエネルギー政策上の必要性  資源エネルギー庁

原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識 広瀬隆・藤田裕幸

 http://www.jnc.go.jp/ztokai/facilities/sisetu/PuHP/home/home1.htm プルトニウム燃料センター

http://www.chuden.co.jp/ 中部電力ホームページ

http://www.atom.meti.go.jp/# 原子力のページ

http://www.enecho.meti.go.jp/ 資源エネルギー庁のページ

原子力政策円卓会議 資料・議事録

 国語辞典 大辞泉