家電リサイクル法と企業の社会的責任の負担

                                            

 f102392 吉本由香里

 

1.はじめに

去年、5月に家電リサイクルセンターである、グリーンサイクル株式会社へ見学に行った。この家電リサイクルセンターは、2001年4月1日の家電リサイクル法施行により、企業は自分が生産したテレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機が廃棄される場合は引き取りをし、基準値以上の再商品化する責任を負うことになり、共同出資で設立された企業である。

現在、このように企業の社会的責任としての役割が拡大して捉えられるようになってきた。このような傾向は企業に大きな負担となるのではないだろうか。家電リサイクル法を例に企業の社会的責任について考察していく。

 

2.家電リサイクル法とは

最近はリサイクルについて、ゴミは出す人だけの責任ではなく、販売、生産する側にも責任があるのではないかという考えがでてきた。この考えの元、定められたのが家電リサイクル法である。

 家電リサイクル法が定められた背景には2つの原因がある。1つ目は、一年間に排出される家電は約60万トンあり、基本的に各市町村が収集し、処理を行ってきたが、大型化傾向にあるテレビやフロン回収が必要とされる冷蔵庫エアコンは各市町村だけの力では困難になってきたこと。2つ目は、大型で重く、非常に固い部品が含まれているため、有用な資源が多くあるにもかかわらず、リサイクルが困難で大部分が埋め立てられている状況にあったことである。このため、一般廃棄物の1.2%にしかないが廃棄物の減量と有用な部品・素材の再商品化等を図り、循環型経済社会を実現していくため、家電製品等の製造業者等及び小売業者に新たに義務を課すことを基本とする新しい再商品化の仕組みを構築することが緊急の課題となった。

 そこで 「売業者、製造業者等による家電製品等の廃棄物の収集、再商品化等に関し、これを適正かつ円滑に実施するための措置を講じることにより、廃棄物の適正な処理及び資源の有効な利用の確保を図り、生活環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与する。」(1)ことを目的とし、家電リサイクル法が定められた。

仕組みは、対象商品(家庭用エアコン、テレビ、冷蔵庫及び洗濯機の家電4品目)を決め、リサイクルにかかる、収集や運搬、処理などの費用を、消費者、販売者、製造者で分担するため、役割分担をした。具体的な役割分担は下記に示すとおりである。

・ 消費者(排出者)

特定家庭用機器廃棄物の再商品化等が確実に実施されるよう小売業者に適切に引渡し、小売業者から収集及び再商品化等に必要な料金を請求された場合、その支払いに応じる。

※料金は企業によって異なる。

・ 小売業者

【1】              自分が過去に小売販売をした特定家庭用機器の廃棄物の引取りを求められた時

【2】              2】特定家庭用機器の小売販売に際し、同種の特定家庭用機器の廃棄物の引取りを求められた時

この2つの場合に特定家庭用機器廃棄物を引取らなければならない。特定家庭用機器廃棄物を引取った時は、中古品として再利用する場合を除き、その特定家庭用機器の製造業者等(それが明らかでない時は指定法人)に引渡さなければならない。

特定家庭用機器廃棄物の引取り・引渡し業務を行う際に、特定家庭用機器廃棄物管理票に必要事項を記載し、排出者にその写しを交付、さらに、製造業者等から回付されてきた管理票を3年間保存しなければならない。また、排出者から管理票の閲覧請求があった場合は応じなければならない。

※小売業者の、業務の管理・運用を効率的に支援するために家電リサイクルサンターで家電リサイクル券システムが設けられた。このシステムでは、料金販売店回収方式と料金郵便局振込方式の2方式を採用しており、どちらの方式を採用してもよい。

・ 製造業者等

あらかじめ指定した場所において、自らが製造した特定家庭用機器廃棄物の引取りを求められた時は、それを引取らなければならない。指定引取場所については、特定家庭用機器廃棄物の再商品化等(T)が能率的に行われ、小売業者・市町村からの円滑な引渡しが確保されるよう適正に配置する必要がある。

引取った特定家庭用機器廃棄物について再商品化等の基準以上の再商品化等を行わなければならない。

・ 指定法人

製造業者等の倒産等により再商品化義務者が明らかでない場合又は特定製造業者等の委託による場合に、特定家庭用機器廃棄物の再商品化等に必要な行為を実施し、製造業者等への引渡しに支障が生じていると指定された地域の市町村又はその住民からの求めに応じ特定家庭用機器廃棄物を引取り、製造業者等に引渡す等の業務を行う。

・ 市町村

収集した特定家庭用機器廃棄物の製造業者等(または指定法人)に引渡すことができます。 また、自分で再商品化等を行うこともできます

・ 国

特定家庭用機器廃棄物の収集、再商品化等を総合的かつ計画的に推進するため、基本方針を定め、公表するとともに、普及啓発に努める。 (通産大臣、厚生大臣及び環境庁長官)

 

 

 

 

3.制定前と制定後の変化

 制定前は家電のほとんどが埋め立てられていたが今ではリサイクルされるようになり、家電ごみが減った。地球の環境を考え、限りある資源を有効に使い、社会がいつまでも発展できることを基礎的な考えとする循環型社会の実現へ近づいている。しかし消費者は費用を企業や国などは引き取り、再資源化をすることが義務となった。循環型社会の実現のためには一人一人の努力なしには不可能だから仕方ないことだといえる。

 

4.環境問題の取り組みとして企業が求められているもの

なぜ企業も環境問題に配慮しないといけないのだろうか。企業が環境問題への取り組みをすることが求められるようになった経過をみてみる。

日本で企業の環境問題が大きく取り上げられるようになったのは4大公害病がきっかけである。それまで日本の企業は、公害防止に費用をかけず、利益をあげることを第一に考えてきた。しかし、地域住民に被害が多発し、人体への影響も現れ始めた。また、公害にあったとして企業に訴訟を起こす住民も増加した。そこで公害対策を推進する法律(条令)が1949年、東京都の工場公害防止条例を最初に次々と制定された。そして1971年には環境庁も設立された。この環境庁の設立により、地域の環境問題(公害)から地球規模の環境問題の解決へと発展していった。                                                                                             

1980年代にはいると大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済となり膨大なゴミを排出してきた。その結果、ゴミの処理から発生する様々な環境問題を引き起こしてきた。例えば埋立地は満杯状態になり新たな場所の確保が困難な事、不法投棄などによる汚染物質の垂れ流し、などである。

そこで循環型社会を目指し、生産から流通、消費、廃棄に至るまで物質の効率的な利用やリサイクルを進め、資源の消費を抑制し、環境への負荷を減らそうという動きになった。そしてリサイクル関する法律も定められた。

今、社会は循環型社会を目指している。循環型社会とは、廃棄物をゼロにする社会のことで「循環型社会形成推進基本法」では次のように定義している(同法第2条)。第一に廃棄物等の発生を抑制し、第二に排出された廃棄物等についてはできるだけ資源として循環的な利用を行い、最後にどうしても循環的な利用が行われないものは適正に処理することが徹底され、環境への負荷ができる限り低減される社会と規定している。(2)

 この循環型社会は1987年に、環境と開発に関する世界委員会(WCEO)が発表した、開発とは技術や資源を利用して自然社会から最大限の利益を得る行為といえるが、最近では、その行き過ぎが砂漠化、熱帯林の減少、野生生物の絶滅、海洋汚染などを引き起こし、地球資源を再生不可能なまでに破壊している。このような現状の反省から開発を環境保全と調和させ、未来にも必要な地球資源を残すことによって初めて人類の発展が持続可能なものとなるという「持続可能な発展」のため構築しなくてはいけないとされている。

 大量生産・大量消費・大量破棄ばかりしていては資源は枯渇し、ごみで溢れ、環境も汚染され住みにくい地球となってしまう。

 そして企業は地球の資源を使い利益をあげまた地球に排出している立場にあるので、循環型社会を目指すためには、企業が何か行動しないと循環型社会の構築は困難になる。よって法で義務が設けられたり、社会的責任として求められるようになった。 企業も社会の一員としての企業市民としての役割を果たさなければならないのである。具体例としては省エネの製品をつくる、二酸化炭素を削減する、植林を行うなどである。

 

5.松下電器の社会的責任の考え

松下電器を例に企業は環境問題に対してどのような考え方を持っているのかをみていく。

松下電器は社会的責任を「経営理念に基づき、当社の経済的・社会的・環境的活動をグローバルな視点で再検討し、その説明責任を果たし企業価値を高める」(3)としている

 松下電器は社会的責任として環境配慮も視野に入れているのである。環境への配慮は企業価値を高めることへと大きくつながっている。環境への多くの規制や法律が制定され無視できない状態になっていることやステークホルダーの環境への関心が高まってきているからである。環境への取り組みによって企業を選定するエコ・ファンドの活動も活発である。また、消費者の意識も向上し、環境に関心の強い消費者層が増え環境に配慮する製品や企業を優遇し買っている。こうした社会の動きを捉えているのである。

 

 6.境保全への基本理念

経営活動の中に環境問題への取り組みをどういう風に位置づけているかをみていく。

あらゆる経営活動の根幹をなす、経営理念として

「産業界人タル本文二徹シ

社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ

世界文化ノ進展ニ

寄与センコトヲ期ス」(4)

を昭和4年、創業者の松下幸之助が制定し、この理念を基礎に1991年6月5日、「松下環境憲章」として「環境宣言と「行動指針」を制定した。さらに2001年10月に「環境ビジョン」、「グリーンプラン2010」を制定し、持続可能な社会の実現に貢献するため、強い使命感を持って誠実に環境活動に取り組むと宣言している。

「環境宣言」とは「私達人間には宇宙万物と共存し、調和ある反映を実現する崇高な使命が与えられている。 我が社はこの人間に与えられた使命を自覚し、企業として社気的責任を遂行するとともに、この地球がバランスのとれた健康体であり続けるために環境維持向上に万物の配慮と不断の努力を行う。(5)ことである。

「行動指針」とは「社会的責任の遂行、環境マネジメントシステムの確立と維持向上、環境目標・目標の策定、法規制・条例などの尊守、環境マネジメントプログラムの確立、監査・経営者の見直し・環境評価、教育・訓練の実施、環境方針の公開」()をしていくことを定めたものである。

この二つをまとめて「松下環境憲章」と呼ぶ。

「環境ビジョン」とは環境技術「Environmental Technology」とエコロジー思考「Ecological Thinking」という2つの「ET」で「地球環境との共存」に貢献していくこと。(7)

「グリーンプラン2010」とは2005年と2010年をターゲットに定めた目標のこと。(8)

 松下電器は環境問題の取り組みに積極的だ。経営活動をしていくためには環境問題に対応していかなくてはならないとしている。

 

7.家電リサイクル法施行にむけて

再商品化の義務を果たし、先端のリサイクル技術を加速するために(株)松下テクノロジーセンターを設立した。ここでは製品から製品を基本の考え方としてリサイクルしやすい製品の研究開発と、使用済み製品の工法・設備の実証研究を行い有用なリサイクル技術を全国に配信している。さらに、使用済みの製品の再商品化拠点を24ヶ所、小売業者などから引き取る指定場所を190ヶ所配するネットワークを構築し、このネットワークに参加する各メーカーからのリサイクル関連業務を一括して代行する(株)エコロジーネットを設立した。

 松下電器は「家電リサイクル法」 の施行に向けて新たな会社を設立し、投資資金が莫大にかかったが、長期的な目で見てこの投資は有益なものである。なぜなら社会の動きは循環型社会の構築へと向かいそれにあった製品を求めていること、法を尊守していることでイメージアップになり、企業価値が高まることからである。

 

7.まとめ

 地球の資源は有限である。その資源を枯渇させないためには、循環させていかなくてはならない。循環させていくには、企業がそのシステムを構築し実行していくことが求められている。なぜなら、企業は地球環境に多くの負荷を与え利益を得ているからである。また個人や国だけでは限界があり、企業に頼らざるをえないからである。

 企業にとっては環境問題に取り組むことは多額の費用が必要になり、負担になると考えていた。例えば、冷蔵庫を製造する時、環境に配慮しないなら、ただ食べ物が冷やせる製品をつくる事だけを考えれば良い。しかし、環境問題に配慮したならば、フロンガスをださないようにする、リサイクル可能な材料を使用する、エネルギーの消費を抑えるなど多くの問題があり、研究開発に時間とお金がかかってしまう。しかし、現在の社会は環境に配慮していない製品を求めていない。よってその製品は売れないのである。フロンガスを排出してしまう冷蔵庫は法律で禁止されているし、家電リサイクル法によって、リサイクル可能な冷蔵庫を製造しなくてはならない。また省エネであることをアピールすることで他社との差別化がはかれ自社の製品により価値をつけれることへとも繋がる。

環境問題はみんなで考えていかなくてはならない問題である環境問題に取り組むことで社会的責任を果たしているとアピールでき、環境問題に興味のある顧客を引き寄せることもできる。

よって家電リサイクル法は社会の流れに沿って制定された法律であり、社会は循環型社会の実現に向かっており、リサイクルしないと消費者にも受けいられづらくなる。また、持続可能な発展も困難となる。家電リサイクル法は企業の義務を明確しただけで、企業はもともと環境に配慮した経営を行っているので大きな負担とはならない。

 

 

 

語句説明

(T)再商品化等は、「再商品化」と「熱回収」の2つの方法があり、自ら利用するか利用する人に有償または無償で譲渡し得る状態にすることをいう (法第2)

・再商品化(マテリアルリサイクル)…特定家庭用機器廃棄物を、@金属、ガラス及びプラスチックからなる廃棄物を金属、ガラス及びプラスチック原料・材料へ再生利用する等原材料としてそのまま再生利用をする方法とA棄物をそのまま材料として利用するのではなく、何らかの科学的な処理をした上で再利用をする方法の2種類がある。

・熱回収(サーマルリサイクル)…特定家庭用機器廃棄物から分離した部品・材料のうち再商品化されたもの以外のものであって燃焼させて熱エネルギーを得るために利用すること。

 

 

主な参考HP・文献

『家電リサイクル法』 http://www.greenc.co.jp/kaden_recycle/05kaden/kaden_05.html

『家電リサイクル法、データー・ベース』 http://www.nippo.co.jp/re_law/relaw5d.htm

『家電リサイクル法概要』 http://www.env.go.jp/recycle/kaden/gaiyo.html

『NIPPO INTERNET』 http://www.nippo.co.jp/

『日本総合研究所』http://www.csrjapan.jp/ 

『メカニズムチャートでわかる環境経営の教科書』 かんき出版 渡辺パコ

『地球環境ビジネスエコビジネスネットワーク編1998−1999』 二期出版 

『環境問題と経営学』 中央経済社 貫隆夫 奥林康司 稲葉元吉

引用HP・文献

(1)『家電リサイクル法って何?』

http://www.meti.go.jp/policy/kaden_recycle/case1/case1_01.html

(2)『環境会計の理論と実態』 中央経済社 勝山進  p247

(3)『松下電器HP』企業の社会的責任(CSR)の推進

http://panasonic.co.jp/csr/index.html

(4)『松下電器HP』経営理念

   http://panasonic.co.jp/company/cc_0001.html

(5)(6)『松下電器HP』 環境への基本姿勢

   http://panasonic.co.jp/eco/policy/ep_0001.html

(7)(8)松下電器環境報告書2004 p3