大会長挨拶
日本ロールシャッハ学会第27回大会を2023年12月2日(土)・3日(日)に中京大学(愛知県名古屋市)にて開催することになりました。本大会のテーマは「心理アセスメントの展開図 -技法の多面性を読み解く」としました。
本大会プログラムを企画するにあたって、投映法を心理アセスメントの位置づけから俯瞰的に考えてみました。現代では心理アセスメントは、知能検査もあれば質問紙法もあり、そして未来に向けてオンラインやコンピューターを活用したアセスメント技法の可能性についても模索されていることと思います。検査者である私たちは、多くある心理アセスメント技法をただバラバラに、興味のある心理アセスメント技法のみを使っているわけではありません。目の前にいるクライエントの利益のために有効な心理アセスメント技法を選択して、テストバッテリーを組んで使用し、そしてそこから得られた臨床的に有用な情報をフィードバックという形でクライエントに還元しています。このように考えた時、心理アセスメントはそれぞれの技法が相互に関連した1つの立体のように考えることができます。そして投映法およびロールシャッハ・テストはその一側面と位置付けられます。本大会では、心理アセスメントのニーズの高い分野には何があり、心理アセスメント技法として何が必要とされているのか、そして投映法はどんな役割を担うのかについて、心理アセスメント技法を展開しながら2日間を通して皆様と考えてみたいと思います。
大会1日目の午前中は、発達障害や心的外傷を抱える人の心理アセスメントといった今心理臨床現場で必要とされている分野、そしてロールシャッハ・テストと親和性のある投映法技法(TAT、描画法)に関するワークショップを企画いたしました。午後からは投映法に関する研究発表があります。本大会による新たな試みとして研究発表(事例研究・一般研究)およびポスター発表からそれぞれ1演題ずつ若手研究奨励賞(40歳未満の若手研究者・臨床家対象)を設けました。エントリーされた研究発表の演題について審査委員会が投票し決定します。どんな研究が受賞されるかの楽しみにしつつ、本学会の将来を担う多くの若手研究者・臨床家の方々からご応募いただけることを期待しております。例年行われてきました懇親会は、今年度も大会開催時の新型コロナウイルスの感染状況等の予測ができないことから、昨年度に引き続き懇親会に代えて大会実行委員会企画シンポジウムを設定しました。中京大学は投映法のパイオニアである片口安史先生・空井健三先生・鈴木睦夫先生が長きにわたり教鞭を執られた大学です。シンポジウムでは「投映法のパイオニアから学んだこと」として3名の先生から薫陶を受けた先生方から「投映法の読み解き方や心理アセスメント」について何を継承したかについて話題提供していただく予定です。そして指定討論者として片口先生・空井先生・鈴木先生と一緒に投映法研究および心理アセスメント教育に長年携わっておられた八尋華那雄先生(中京大学名誉教授)をお迎えし、投映法の読み解き方に関して本当に大切なことは何かについて、再確認する機会にしたいと思います。
大会2日目の午前中は、若手シンポジウム「投映法研究の予想図:これからの100年に向けた若手研究者の声」というテーマで、投映法研究で活躍中の若手研究者の石井佳葉先生(就実大学)・鈴木千晴先生(立命館大学)・松田凌先生(愛知東邦大学)にご自身の研究紹介とともに今後のロールシャッハ・テストの未来について話題提供を、指定討論には石橋正浩先生(大阪教育大学)をお迎えし、今度はロールシャッハ・テストの未来と発展のために必要なことについてフロアの皆様とともに考えたいと思います。
午後からは弘前大学の井上直美先生に「R-PASの概要と課題:包括システムのreplacementとして」というテーマでの特別講演をお願いしております。現代のエビデンスベースドな時代に対応したロールシャッハ・テストの最前線を知る機会になると思います。
最後のシンポジウムでは「ロールシャッハ・テストの解釈とフィードバック:何を伝えるのか」のテーマのもとに、服部信太郎先生(岐阜病院)に病院臨床のロールシャッハ事例を提供いただき、吉村聡先生(上智大学)に力動的アプローチで、井上直美先生(弘前大学)にR-PASでそれぞれ解釈とフィードバック案を提示していただきます。指定討論に高瀬由嗣先生(明治大学)とフロアの皆様とともにロールシャッハ・テストのフィードバックで「何をクライエントに伝えると治療的に有用なのか?」という重要なテーマについて考えたいと思います。
本大会の開催場所である中京大学名古屋キャンパスは、JR名古屋駅から地下鉄を利用して最寄りの八事駅まで30分の所に位置しており、交通アクセスは良好であると思います。今後、開催方式などへの変更等の生じる場合には本大会のホームページで随時情報発信を行いますので、ご確認のほど宜しくお願い申し上げます。
投映法がこれらの心理臨床現場において役に立つ技法であり続けるために、投映法の読み解き方、臨床的に有用なフィードバックの仕方について、常に学び続ける必要があります。本大会の2日間にわたるプログラムを通して、投映法のパイオニアが大切にしていた視点、研究の最前線からの知見から、心理アセスメントならびに投映法についてたくさんの視点や知見を参加者の皆様と共有して、明日からの心理臨床につながっていく機会になればと期待しつつ、多くの方々のご参加を大会実行委員会スタッフ一同、心からお待ち申し上げております。
日本ロールシャッハ学会第27回大会長 明翫光宜