人間共生ロボティクス研究室 中京大学 工学部 加納研究室 Human-Robot Symbiosis Laboratory
RESEARCH
運転振り返りロボットの開発
運転振り返りロボットは、ドライバーが自分の運転を客観的に見直し、安全運転につなげることを支援するロボットです。運転中の映像や走行状況をもとに、帰宅後や運転後にロボットと一緒に運転内容を振り返ることで、危険な場面、判断が難しかった場面、改善できる行動を確認できるようにします。特に高齢ドライバーの運転技能の維持・向上では、継続的な振り返りが重要ですが、教習所などに通う方法には時間的・地理的な制約があります。そのため、本研究では、自宅などの身近な環境で、より気軽に運転を見直せる仕組みとして、運転振り返りロボットの開発を進めています。
これまでに、危険運転動画を用いて運転行動を教示する方法、ドライブシミュレータで振り返りを促す方法、Mixed Realityを用いた運転振り返り支援、ジェスチャ入力による操作方法、車両と歩行者の側方通過距離の推定、右折時の危険度推定などを検討してきました。また、ロボットへの名付けや敬称の付与、発話の抑揚などが、ロボットへの愛着や支援の受け入れやすさに与える影響も調べています。単に危険を指摘するだけでなく、ドライバーが納得して振り返りを続けられる関係性を設計することで、日常生活の中で利用しやすい安全運転支援の実現を目指しています。
人に世話されるロボット「Babyloid」の開発
人が生きがいを持つためには、仕事、家庭、地域など、周囲との積極的な関わりが重要です。そのためには、いつでも関わり合える存在がその人の周囲にいる状態が望まれます。本研究では、人と共生する「世話されるロボットBabyloid(Baby doll -oid)」を開発しています。Babyloidは、人を一方的に支援するロボットではなく、人に世話をされる存在として設計されています。ロボットの世話という役割によって、人からの意図的な関わり合いを促し、生きがいを感じられる生活環境を構築することを目指しています。福祉分野では、赤ちゃん人形を用いたDoll Therapy(人形療法、赤ちゃん人形療法)が実施されており、Babyloidにも独居高齢者や認知症患者の精神性・社会性の改善といった効果が期待できます。また、Babyloidが突然泣き出したときに人がどのように感じるか、Doll Therapyにおける主観的評価、ロボット支援活動の実用性などについても検討してきました。Babyloidは改良の後、2015年1月より株式会社東郷製作所からスマイビとして、2016年8月よりミサワホームからスマイビSとして販売されています。
オノマトペによるロボットの直感的操作
オノマトペは、「擬音語」「擬態語」「擬声語」の総称であり、物体の音や響き、動き、手触り、状態などを感覚的に表現する言葉です。一般的な語彙に比べて、臨場感にあふれた繊細な表現や絶妙な差異を表すことができます。本研究では、オノマトペをロボットの動作生成、操作、デザイン支援、書写技能の伝達などに利用しています。たとえば、「すっ」「ふわっ」「ぐいっ」といった言葉から、人が意図する動きの特徴を推定し、ロボットの動作やデザインパラメータに反映する方法を検討しています。また、オノマトペの音の特徴を用いたロボット動作編集、手書き文字変形、筆記特徴の言語化、音象徴性の可視化、オノマトペ・シソーラス・マップを用いた関係性の可視化にも取り組んできました。さらに、歩行を表すオノマトペがロボットの印象に与える影響についても検討しています。専門的な数値や命令を使わなくても、人が持つ感覚をそのままロボットやシステムに伝えられる点が、この研究の大きな特徴です。
教育支援ロボットの開発
人とロボットが共生する社会では、ロボットは作業を代行するだけでなく、人と共に学び、考え、成長を支える存在になると考えられます。本研究では、人と共に学び合うロボット、すなわち教育支援ロボットの開発を進めています。これまでに、ロボットが学習者にヒントを与える方法、ほめ言葉を用いた共同学習、身体動作や表情を用いた共感表出、認知的徒弟制理論に基づく教示、Learning by TeachingやLearning by Observingを促す学習支援などを検討してきました。ロボットが常に正解を教えるのではなく、学習者と同じ場に参加し、ときには助言し、ときには共感を示すことで、人の学習意欲、学習時間、親密性に影響を与えられる可能性があります。また、競争学習における教育支援ロボットの印象や、学習者の視線領域を推定する方法、教員がロボットを使いやすくする支援システムについても研究しています。ロボットを学習環境に導入することで、子ども、高齢者、発達特性を持つ学習者など、多様な人々に合わせた柔軟な学びの場を実現することを目指しています。
ロボットの感情表出
人とロボットが自然に関わるためには、ロボットが単に情報を伝えるだけでなく、感情や状態をわかりやすく表すことが重要です。本研究では、ロボットが自身の身体性に基づいた感情表出を行うことで、人とロボットとのコミュニケーションに心理的インタラクションを創発させることを目指しています。これまでに、感性ロボットifbotを用いた表情表出、感情空間に基づく表情生成、混合感情の表出、発話や表情表出の計画、表情変化による性格付け、音声からの感情推定などに取り組んできました。また、ロボットの服の色や発光する衣服が人に与える感情的印象、外見と発話の組み合わせが心理的印象に与える影響、漫画的な表現技法を福祉ロボットの表情表現に応用する方法についても検討しています。感情表出は、人にロボットの状態を伝えるだけでなく、人がロボットに親しみやすさ、信頼感、安心感を抱くかどうかにも関わります。本研究では、表情、身体動作、声、色、外見といった複数の要素を統合し、人に受け入れられやすい感情表現の設計を進めています。
学習・進化によるヒューマノイドロボットの動作生成
ロボットが実世界で活動するためには、あらかじめ決められた動作だけでなく、不確実性や想定外の変化が起こる環境に応じて、自ら適応的に動作を獲得する能力が求められます。本研究では、学習や進化的計算を通じて、ヒューマノイドロボットの動作生成や行動則の獲得を行う方法を検討しています。これまでに、多値決定グラフや進化的二分決定グラフを用いたロボットの動作表現、節点の動的追加による行動則獲得、成功確率に基づく強化学習による危険回避行動の獲得、二足ロボットの歩容生成、運動の知識化に基づく模倣ロボットの運動認識と応用生成などに取り組んできました。また、逆強化学習やファジィ推論を用いて、あいまい性を考慮した報酬関数を設計する研究も行っています。人がすべての動作を直接プログラムするのではなく、ロボットが経験や評価を通じて動作を獲得できるようにすることで、複雑な環境で柔軟に行動できるロボットの実現を目指しています。
他者的に自己充足性を満たすロボット
自己充足性とは、動物やシステムが長期間にわたって自身を維持する能力のことです。ロボットであれば、バッテリ残量を維持するために充電する、故障を回避する、必要な資源を確保する、といった行動が考えられます。自らの維持は、直感的にはロボット自身によって行われると思われがちですが、実世界では「他者的」に行われる場合も数多く見られます。たとえば赤ん坊は、自分だけで状態を安定させることはできませんが、泣く、動く、表情を変えるといった行動によって母親や周囲の人に状態を察知してもらい、結果として自己充足性を満たしています。本研究では、このような「他者的に自己充足性を満たす」という考え方に着目しています。ロボットが自身の内部状態や不安定さを適切に表出し、人からの関わりを引き出すことで、自身の維持や目的達成につなげる仕組みを検討しています。この考え方は、人に世話されるロボットBabyloidの設計思想とも関係しています。ロボットが完全に自律するのではなく、人との関係性の中で存在を維持することで、人とロボットの新しい共生の形を探っています。
STAFF

加納 政芳, Masayoshi KANOH
中京大学 工学部 機械システム工学科 教授
1999年名古屋工業大学工学部知能情報システム学科卒業. 2001年名古屋工業大学大学院工学研究科博士前期課程電気情報工学専攻修了. 2004年同大学院博士後期課程修了. 同年中京大学生命システム工学部身体システム工学科講師. 2008年情報理工学部機械情報工学科講師. 2010年同准教授. 2013年工学部機械システム工学科准教授. 2015年より現職. 博士(工学). 感性・知能ロボティクス,インタラクションの研究に従事. 特に,人の感性に主導されるヒューマン・ロボット・インタラクションに興味を持つ. 2006年日本感性工学会技術賞,2010年日本知能情報ファジィ学会論文賞,2016年日本知能情報ファジィ学会著述賞. IEEE Senior会員,日本ロボット学会,人工知能学会,日本感性工学会,日本知能情報ファジィ学会各会員.
共同研究者

早瀬 光浩, Mitsuhiro HAYASE
椙山女学園大学 文化情報学部 文化情報学科 准教授
2013年中京大学大学院情報科学研究科博士後期課程情報認知科学専攻修了. 2014年豊橋創造大学特命講師. 2015年同大学経営学部経営学科助教,2018年同講師,2020年同准教授. 2022年椙山女学園大学文化情報学部文化情報学科准教授,現在に至る. 博士(情報科学). コンピュータビジョンの研究に従事.特に,物体認識に興味を持つ. 情報処理学会,人工知能学会,日本知能情報ファジィ学会,日本ロボット学会などの会員.

ジメネス フェリックス, Felix JIMENEZ
愛知県立大学 情報科学部 准教授
2012年中京大学情報理工学部情報知能学科卒業. 2014年中京大学大学院情報科学研究科情報科学専攻修了. 2016年名古屋大学大学院工学研究科博士課程計算理工学専攻修了. 2014年〜2016年3月日本学術振興会特別研究員(DC1). 同年4月名古屋大学大学院工学研究科助教. 2018年愛知県立大学情報科学部助教,2020年同講師,2022年同准教授,現在に至る. 博士(工学). 感性・知能ロボティックス,Human-Robot-Interactionの研究に従事. 特に,人の学習を支援する教育支援ロボットに興味を持つ. 日本ロボット学会,日本知能情報ファジィ学会, 電子情報通信学会,人工知能学会,IEEEなどの各会員.
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