研究室の活動

1. 高齢者の生活体力
高齢者における体力の概念を『機能的に自立して日常生活を支障なく過ごすための身体的動作能力』と定義し,これを『生活体力』と名づけ,比較的元気な高齢者まで対象を広げて日常生活動作をどの程度うまく,余裕をもってできるかを定量的に評価するための指標を開発した.

生活体力との関連要因を横断的に観察した研究から,①循環器系や運動器系疾患の既往歴,②仕事や運動・スポーツによる身体活動,③趣味や稽古事などの社会活動,④情緒などの精神的機能との間に有意な関連性を認めた.さらに,地域在宅高齢者を対象とした6年間の縦断研究から,生活体力の高い者ほど死亡および自立能力障害の発生に対する相対危険度がいずれも低いことが明らかになった.これらの結果から,生活体力は高齢者の自立能力の評価指標として妥当性が高いものと考えられた.

生活体力水準別の生存率(男性)

2. 高齢者のための長期継続型プログラム
身体的に自立した高齢者を対象に,運動を主体とした健康づくりプログラムを5年間に渡って実施し,長期に渡る運動実践が高齢者の死亡および自立能力障害の発生に及ぼす影響について検討した.対象者は,山梨県都留市で行った介護予防事業「元気で長生き健康教室」に自主的に参加し,測定および調査を受けた者155名(男性56名:ベースライン時点の平均年齢76.5±4.2歳,女性99名:76.2±4.8歳)を介入群とした.一方,教室開催とは別に実施した同市における高齢者の健康実態調査に参加した者のうちで,介入群と同地区に居住する者90名(男性29名:ベースラインでの平均年齢77.6±5.2歳,女性61名:77.3±5.1歳)を対照群とした.

行動面における介入効果として,軽い体操や歩行などの運動習慣を有する者の割合は,女性の介入群では初年度に比べて最終年度に増加したが対照群では低下し,両群の変化量に明らかな差が認められた.機能面においては,初年度に比べて最終年度には生活体力の明らかな低下が両群ともに認められた.しかしながら,女性介入群における低下量は対照群に比べて明らかに少なかった.このことは加齢による生活体力の低下が,運動介入によって抑えられたものと推察された.女性介入群の5年間の累積死亡率の相対危険度は0.16(95%信頼区間0.03‐0.81),自立能力障害における相対危険度は0.36(95%信頼区間0.13‐1.02)であり,運動の長期継続によって自立高齢者の健康寿命を延伸できることが明らかになった.以上の結果をまとめると,我々が考案したプログラムは短期的には自立高齢者の運動行動の改善および生活体力の維持増進に効果が認められた.また,長期的には生活体力の低下抑制および死亡・自立能力障害の予防(健康寿命の延伸)に有用であることが示唆された.

死亡率及び自立能力障害発生率