国家施策と戦略

1. 健康日本21
これまでのわが国の健康づくり対策としては,昭和53 年(1978 年)からの第一次国民健康づくり運動と昭和63 年(1988 年)からの第二次国民健康づくり運動があげられる.これらの取り組みのなかでは,主に健康診査体制の確立,施設整備,人材育成,および健康づくりのための指針の策定などがなされてきた.
このような流れを踏まえて,21 世紀の日本をすべての国民が健やかで心豊かに生活できる社会とすることを目的に,新たに第三次国民健康づくり対策として「21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が策定された.「健康日本21」では,これまで以上に健康を維持・増進し,病気の発症を予防すること,すなわち一次予防が重要視されている.さらに,国民が主体的に健康づくりに取り組むことを目的に,個人の力に加えて社会全体による支援の重要性が強調された.

2. 健康障害の予防戦略
健康障害の予防活動は3 段階あり,脳卒中などの疾病の再発予防や社会復帰を目的とする「三次予防」,生活習慣病などの疾病の危険因子(血圧,血糖,中性脂肪など)の悪化を早期に発見し・早期に治療することを目的とした「二次予防」,そして健康な状態を高水準に維持し,病気に罹り難くすることを目的とした「一次予防」があります.

健康障害を起こす可能性が高い危険因子を持つ集団のうち,より高い危険度を有する者に対して,その危険因子を除去することによって疾病を予防する対策を高リスク戦略と呼びます.一方,元々リスクの低い集団に対して将来的にも危険因子を持たせないようにする対策は集団戦略と呼ばれています.例えば,臨床的高血圧のグループに対して強力な治療を実施すれば,血圧の低下に伴い合併症の発生頻度を減少させることができるでしょう.しかし,将来的に脳卒中などの重大な合併症に罹る者の絶対数は,現在高血圧域である者よりも境界域の者の方が圧倒的に多いのです.従って,高リスク者のみならず低リスク者をも対象として健康障害の予防対策を実施すること,すなわち高リスク戦略と集団戦略を併合することが大切なのです.